科学的に「ナックルボール」はなぜ打ちにくいか 「変化球」の科学的分析で見えてくること

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●シンカー

シンカーは、昔で言えば、潮崎哲也投手(西武ライオンズ)、高津臣吾投手(東京ヤクルト・スワローズ、現監督)などサイドスローの投手や、ややスリークォーターの左投手が得意としてきました。

シンカーは中指と薬指から抜くように投げるのですが、横の投法の投手が投げることによって、純粋なサイドスピンがかかり、落ちるように見えます。軸の鉛直上にまっすぐなサイドスピンがかかると、シュートしながら落ちていきます。これは揚力が真横にかかることで、重力の影響を受けやすくなり、落ちていくように見えるのです。

重力で落とすため球速はやや遅く、球速効率は80~85%ほどになります。

●ナックルボール

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ナックルボールは、打者にとってやっかいな球種です。なぜなら、ボールが揺れて見えて、どっちに曲がるかわからないからです。どっちに曲がるかわからないと、実は投げる投手も受ける捕手もやっかいで、コントロールするのが大変なボールと言えます。

ナックルボールは、主に人差し指と中指の爪をボールに立てるように握り、投げるときにその指を押し出します。すると、ほとんど回転しないボールになります。ナックルボールの回転速度は毎分30~60回転で、投げてからホーム・ベースに到達するまで4分の1回転から半回転しかしません。

あまり回転しないボールがまっすぐ進むと、ボールの後ろに乱流と呼ばれるものができます。乱流は、川などに杭が刺さっていると、その後ろに行き場を失った水が渦をつくる様子で確認できます。この乱流がボールの抵抗となり変化を与えます。

しかも、ゆっくりと縫い目の位置が変わるので、その縫い目の位置で抵抗のかかり方が変化して、ボールが揺れて見えたり、思わぬ方向に曲がったりするのです。ナックルボールは誰にとっても予測不能の変化球で「魔球」と呼ばれるゆえんです(図2-3)。

球速は時速100キロ程度(球速効率70%)で、投球の9割をナックルボールで勝負する投手がメジャー・リーグにはいます。

なお、言い訳なのですが、球種は似たようなものだと区別がつきにくいものがあります。これは結局、変化球の区別は投手自身がするからです。投手が「スライダー」と言ったら「スライダー」になりますし、「カーブ」と言ったら「カーブ」になるのです。ですので、「あの投手の、あの回転は、カットボールじゃないの?」と言ってもそうはならないことがあります。悪しからずご了承ください。

図2-3 ナックルボールの原理(空気抵抗)
川村 卓 筑波大学体育系准教授、筑波大学硬式野球部監督

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かわむら たかし / Takashi Kawamura

1970年生まれ。全日本大学野球連盟監督会運営委員、首都大学野球連盟理事・評議員。市立札幌開成高校時代には主将・外野手として1988年、夏の甲子園大会(第70回)に出場。筑波大学時代も主将として活躍。筑波大学大学院修士課程を経た後、北海道の公立高校で4年半、監督を経験。2000年12月には筑波大学硬式野球部監督に就任。2006年、秋季首都大学野球リーグ優勝を果たす。主にスポーツ選手の動作解析の研究を行っている。

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