コロナ禍も「生活保護は嫌」申請者の葛藤と現実 素直に申し出る人は2割、自治体の対応にも問題
――こういった背景にはどんなことがあるのか。
田川「福祉事務所の職員の数が少ない、職員は人事異動のサイクルが3年程度なので、質が担保できていません。1人で100世帯、200世帯を担当する自治体もあって、非正規の職員に任せて研修制度がきちんとしていないところもあります。
公務員と言っても1人の住民です。住民の中に生活保護は恥ずべきもの、利用しないほうがいいという価値観があると、それを引きずったまま公務を行う場合もあります。誤った制度理解を持つ先輩が、間違ったまま後輩に伝えるということもあります。
小田原市の『生活保護なめんなよ』ジャンパー事件は、当時の保護係長が提案した。だからこそ研修が必要なのです」
基本は貸付となる「生活困窮者自立支援法」
――沖合作戦というのもあるそうですね。
田川「生活困窮者自立支援法は、一部現金給付がありますが基本は貸付です。生活保護とは雲泥の差なのです。生活保護にたどり着く前に、沖合ではねつけるということで、沖合作戦と呼ばれていますが、他法他施策を口実に生活困窮者自立支援制度で何とかしようとする自治体がある。
どんなに困窮状態であっても、生活困窮者自立支援制度を利用させるという自治体と、保護は同じ窓口で受け付け、その後、内情を評価してどちらが適切かを振り分けている自治体がある。
アセスメントしていればいいのですが、生活保護は利用させずに、生活困窮者自立支援制度利用という流れができると問題は深刻化・複雑化します。借金がさらに増え、立ち直りが難しいこともあります」
――横浜のケースでは録音していたことが大きかったですよね。
田川「本人がスマホで録音していたので、よかったです。録っていなかったら、『いやそんなこと言ってません。適切に説明しましたよ』と、終わりになっていたでしょう。申請は録音しなきゃいけませんね。
録音禁止と書いている窓口もあるけれど、録音禁止の根拠はないのです。防衛策としては、相談の際に録音しておくことは大事かもしれません」