コロナ禍も「生活保護は嫌」申請者の葛藤と現実 素直に申し出る人は2割、自治体の対応にも問題
新型コロナ災害緊急アクションでは、2020年4月からホームページに相談フォームを設けている。そこに、現在いる場所、所持金、生活保護を受けたいか、支援してほしいことは何か、仕事に就きたいか、などを書きこんでもらい、応対している。
――生活保護を申請したいという人はかなりの数あるのですか。
田川「そんなに多くはありません。最終的には生活保護しかないというケースもありますが、ストレートに申請したいと言ってくるのは、2割程度。
生活保護の申請が少ないのには、2つ理由があります。まず、コロナで大変だけれども、持続化給付金や住居確保給付金、社会福祉協議会の貸付でこれまでなんとかやってこられたので、『生活保護ではなく、とにかく当面凌げればいい』と言います。
もう1つは『多くの人は、生活保護はいやだ』という忌避感が強いからです。生活保護を受けるなら死んだほうがマシだ、とはっきりおっしゃるかたもいます。
生活保護は自分が受けるものではない、受けられないと思い込んでいるかたもいる。受けられると思っている人の中でも、なるべくなら受けたくない、絶対受けたくない人が結構な割合でいます」
扶養照会がネックに
生活困窮者を支援する「つくろい東京ファンド」(東京・中野区)は、昨年末から年始にかけて、生活相談に訪れた人に「生活保護利用に関するアンケート」を実施。165件の回答のうち、生活保護を利用していない128人に理由を尋ねたところ、34.4%が「家族に知られるのが嫌だ」と答えた。
生活保護を利用するまでの流れは、住んでいる地域の福祉事務所に相談し、利用する意思がある人は申請書を提出。申請を受けると福祉事務所が戸籍情報をもとに、生活状況や資産状況などを調査する。その中で、概ね2親等以内の親族(親、子、兄弟、祖父母、孫)、まれに同居していない戸籍上の配偶者に、生活の援助が可能かどうかを手紙などで確認する。これが「扶養照会」とばれるものだ。
つくろいファンドの同アンケートには「家族に知られたくない」「家族に知られたら縁を切られる」などの抵抗理由が挙げられた。
もともとDVや虐待を受けていたケースでは、扶養照会をしなくてもよかったが、今年3月からは、親族に借金を重ねている、相続をめぐり対立している、親族と縁を切っていて、関係が著しくよくない、10年程度音信不通などのケースでは扶養照会をしない制度に改められた。
また厚労省は「扶養照会を拒否する者」の意向尊重の方向性を示すとともに、扶養照会を行うのは「扶養が期待できる場合」のみに限る、との通知を出した(4月1日施行)。
――この通知が徹底されれば、改善されるかもしれませんが、利用したいと思っても、扶養照会がネックになっているのですね。
田川「生活保護制度は、生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)として憲法で保障されています。生活保護バッシングなどもあって、生活保護が恥ずかしいものだというスティグマになっているのです。
ひとり親のかたで困窮されているのに、生活保護を受けるくらいなら、今の状態で頑張るという人もいます。児童手当や児童扶養手当、自分の少ない収入でなんとかするというのです。生活保護を利用したら、役所からあれこれ言われて窮屈だと思われているのかもしれない。
ひとり親の家庭で、男の人と交友があってはいけないということもないのだけれど、訪問してきたケースワーカーに『あれ、男物の歯ブラシありますね』みたいなことを言われるので、プライバシーに踏み込んでくるのならやめようと抵抗を感じる人もいます。口うるさく言われてはたまらないという思いもあるのでしょうね。保護を受給するまではハードルが高いのも事実です」