「矛盾だらけ」の頭の固い人を変える交渉テク 力ずくで押してもかえってガードが固まるだけ

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このテクニックは、矛盾がそれほど明確でない場合にも使うことができる。気候変動を否定する人たちでも、自分の子どもたちが汚れた空気の中で暮らすことは望まない。あるいは従来の非効率なやり方に固執するベテラン社員も、新入社員に同じやり方をすすめることはしない。これらもまた、他人にすすめることと自分がやっていることの間に矛盾がある例だ。

赤字プロジェクトの再考を促す「ある問い」

まったく成果が上がらないプロジェクトや、赤字を出してばかりいる部署があるとしよう。普通に考えればどちらも続ける価値はないのだが、一部の人が強硬に存続を主張している。「もう一度チャンスをあげよう。もう少し時間をかければ回復する」と彼らは言う。ここでも慣性の法則が働き、本当は切るべきものを切ることができなくなっている。

しかし、あからさまに「切れ」と言っても効果はない。ここでは視点をずらすというテクニックが役に立つ。

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彼らにこう尋ねてみよう。「もし今の自分が、今の状況を知ったうえで最初から始めるとしたら、また同じプロジェクトを選ぶだろうか? 今新しいCEOが就任したら、新CEOはこの部署を存続させようとするだろうか? もしそうでないなら、なぜ私たちは続けるのだろう?」

矛盾を指摘し、さらに前面に押し出すことで、人々は自らの矛盾に気づくだけでなく、さらにそれを解決しようと努力する。

このように、変化を起こすために必要なのは、力ずくで押すことではない。説明がうまいとか、説得力があるということも関係ない。こういった戦術でうまくいくこともたまにはあるだろうが、むしろ相手がかえってガードを固めてしまうことのほうが多いだろう。

変化で大切なのは、自分が触媒になることだ。障害物を取り除き、ハードルを下げることで、人々の行動を促すことなのだ。

ジョーナ・バーガー ペンシルベニア大学ウォートン校マーケティング教授

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じょーな・ばーがー / Jonah Berger

国際的ベストセラー『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』(東洋館出版社)の著者。行動変化、社会的影響、口コミ、製品やアイデア、態度が流行する理由を専門に研究する。一流学術誌に50本以上の論文を発表。新聞・雑誌に寄稿した記事も人気を博している。

Apple、Google、NIKE、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などをクライアントに持つコンサルタントでもある。『ファスト・カンパニー』誌の「ビジネス界でもっともクリエーティブな人々」に選出され、その仕事は『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』誌の「年間アイデア賞」で何度も取り上げられている。

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