「矛盾だらけ」の頭の固い人を変える交渉テク 力ずくで押してもかえってガードが固まるだけ

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このキャンペーンの予算はわずか5000ドルで、メディアを使った宣伝も行わなかったが、効果は絶大だった。ホットラインへの電話は60パーセント以上増加した。喫煙者と子どものやりとりを撮影した動画はネットで拡散され、わずか1週間あまりの間に500万回も再生された。

それから数カ月たっても、ホットラインへの電話は以前のほぼ3割増を維持していた。このスモーキング・キッド・キャンペーンは、史上もっとも効果的な禁煙キャンペーンと多くの人から認められている。

タイ健康促進財団のキャンペーンがうまくいったのは、「ギャップを明確にする」というテクニックを活用したからだ。他人(子ども)に言うことと、自分でしていることの矛盾を、喫煙者本人に気づかせるという効果がある。

ギャップを感じたら正常な状態に戻そうとする

人間は首尾一貫していることを求める習性がある。自分の態度、価値観、行動が首尾一貫していないと、どうにも気持ちが悪い。環境問題に関心がある人は、なるべく二酸化炭素を排出しない生活を心がける。正直さは大切だと信じている人は、自分もウソをつかないように努力する。

そのため自分の態度と価値観に矛盾が生じると、人は落ち着かない気分になる。この気持ちの悪さは、心理学の世界で「認知的不協和」と呼ばれている。認知的不協和を感じた人は、なんとか正常な状態に戻そうとする。

タイの喫煙者は、まさにこの認知的不協和を感じていた。彼らはすでにたばこを吸っているが、子どもにはたばこは体に悪いと説教をする。これは明らかな矛盾だ。この認知的不協和を取り除くには、子どもの喫煙を認めるか、あるいは自分の行動が間違っていることを認め、真剣に禁煙に取り組むしかない。そして彼らは後者を選んだ。

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