日本のスポーツが「苦行」をベースに発展した訳 ドイツと日本で考える文化としてのスポーツ

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高松:私はもともとスポーツに関心はそれほどなく、地方都市の発展をテーマにしてきました。ドイツというのは小さな都市でも元気なところが多い。取材を続けていると、その理由もすこしづつわかってきました。

上田滋夢(うえだ・じむ)
追手門学院大学教授。社会学が専門で、スポーツにみられるガバナンスやスポーツと社会秩序、社会システムといった分野からの研究を行っている。日本サッカー協会強化委員会委員や名古屋グランパスのテクニカルディレクターなどを務めた。またサッカークラブAS.ラランジャ京都の会長も務めるほか、サッカー解説者としても活躍。1965年生まれ。著書に『スポーツ戦略論』『スポーツガバナンスとマネジメント』『スポーツSDGs概論』など(いずれも共著)

上田:スポーツクラブが大きなカギとなっているようですか?

高松:はい。クラブがすべてというわけではないですが、多様で重層的な人間の繋がりはカギです。私が住む11万人の町でも100程度のクラブがある。これらはスポーツを軸にしたコミュニティで、地域社会を作るエンジンのひとつになっている。裏を返すと、それが地域社会にとってのスポーツの価値です。

上田:スポーツの価値そのものはたくさんあり、ヨーロッパでも明確に言語化するのは難しいというのが私の理解です。それでも、確かに人と人をつなげる文化の接着剤であり社会の潤滑油になっていますよね。

高松:ラランジャもそうですね。

上田:ここがおもしろくて、スポーツを軸にしたコミュニティとか、スポーツの価値といった話になると皆さんちょっとわかりにくいと感じられるのか、ラランジャについて「何を目標としているの」といった質問をよく受けます。

高松:大上段に構えると難しい。

上田:そうなんです。もっと自然に、スポーツというものに関わっていることで人々が「生」を感じ、自然に教育的な作用が生まれてくるといいなと思います。

高松:明確な言語化はされていないが、それでうまくやっていけるようなところがあると。

言語化したとたん「行間を読む」日本

上田:そうですね。「見える化」していくというやり方は、欧州などは明確で効果的です。それは大切ではあるし、欧州のそういうやり方を理解する必要はあります。しかし、日本は言語化したとたん、空気を読むかのように、行間を読んでしまうんです。これがいいところでもあり、悪いところでもあります。

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高松:日本で積み重なってできている、理解やコミュニケーション、物事の進め方があります。そういうものが集団で、しかも無意識に出てきますね。

上田:はい。ドイツをはじめ、海外の様子を見るのはいいことだと思います。それを「すごい、すごい」と言って終わらせるのではなく、絶好の比較の材料とすることが大事ではないかと。日本の昔から積み重ねてきたものを意識することにもつながります。そういうことができる人が育まれる空間をつくりたいと思っています。

高松:大学の先生としては理論的にそういうことを教える。そして、ラランジャでは実際の活動を通して、色々なことに気づく感度を高めることや、考える態度をこどもたちにつけてもらうということでしょうか。すばらしいですね。

上田:いえいえ。見える槍や見えない槍が飛んできたり、行間に挟まれて押しつぶされそうになって大変ではございますけど(笑)。

高松:試合に出たり、勝つことに集中するだけのスポーツはいかにももったいない。スポーツを文化としてとらえていくと、まわりにまわって社会そのものにダイナミズムが生まれるような気がします。ありがとうございました。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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