るるぶがまさかの「宇宙ガイド」に進出したわけ あの「ONE PIECE」や新日本プロレスまで題材に

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旅行から遠く離れた異色のコラボも実現している。『るるぶ新日本プロレス 公式ガイドブック』(3月2日発売)だ。

プロフィールは実に細かい。選手おすすめの店を多く掲載している点もポイントだ(写真:『るるぶ新日本プロレス 公式ガイドブック』より)

冒頭には内藤哲也、オカダ・カズチカなどの人気選手をインタビューで特集。選手のプロフィール紹介をはじめ、プロレスの基本ルールや技、王者のベルト、さらには後楽園ホールなど会場の解説も並ぶ。「ヤングライオン」と呼ばれる若手選手の日々の仕事に密着するなど、マニアも楽しめる内容だ。選手行きつけの飲食店ガイドも数多く掲載されており、『るるぶ』らしさも忘れていない。

「実は2018年から温めていた企画だったんです」。そう明かすのは編集長を務めた勇上香織氏。元はプロレスファンの社員の発案だったが、何度も却下されていたという。新日本プロレスのファンは女性が多く、『るるぶ』も読者の6割が女性だ。相性がよいと考えたものの、公式ガイドは既存ファンの満足度と新たなファン作りの両面が求められるため、難易度が高いのだ。それがコロナ禍もあり、ようやくGOサインが下った。

「公式ガイドなら『るるぶ』」を目指す

新日本プロレスの協力を得て制作にとりかかったものの、こちらも苦労の連続だった。コロナで多くの試合が延期になり、当初は対面のインタビュー取材が難しい状況だった。そんな中でもスタッフや選手たちは撮影やアンケートの回答など、積極的に協力してくれたという。また、試合が再開すると王者も目まぐるしく変わるため、最新情報の確認作業に労力を費やした。

このように、既存『るるぶ』とは異なる苦労も重ねつつ、数多くの新しい『るるぶ』が生まれた。シルバニアファミリーとのコラボ、初心者向けのキャンプガイド、図解を中心に据えた世界遺産のガイドなどだ。そのほかタイ語の学習をテーマにしたものもある。

これら新機軸の『るるぶ』はコロナ禍を抜けても制作を続ける構えだ。発行計画を担当する日比野玲子氏は「公式ガイドなら『るるぶ』、というようにしたい。将来的には『るるぶ情報版』と同等の規模に拡大していく」と語る。ガイドにこだわらず、学習向けの『るるぶ』も積極的に開発する考えだ。

無論、乗り越えるべき課題もある。旅行ガイドは「鎌倉版はあじさいの6月と紅葉の11月に売れる」などシーズンが決まっているが、新機軸の『るるぶ』は『ONE PIECE』のように発売前からネットを含め在庫量が必要になる例もある。「旅行ガイドと売れ方がまったく異なる。販売面の思考錯誤を続けている」(日比野氏)。

コロナでどん底に突き落とされた『るるぶ』。だが、そこで見つけたのは旅行を離れても活用できる自らのノウハウだった。新機軸の『るるぶ』の拡大と、コロナ収束後の情報版の復活で全体の再成長を達成できるか。その成否は多方面のファンを巻き込むガイドを企画し続け、新たなブランドを確立できるかにかかっている。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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