西田敏行「男らしさに囚われない」名優の魅力 「男は黙って〇〇」が美学とされた時代の異端者

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この系譜にあるのが、宮藤官九郎脚本シリーズといえる。古典落語が現実の物語とシンクロしていく『タイガー&ドラゴン』(2005年・TBS)、そして能の演目と家族の心模様が重なっていく『俺の家の話』(2021年・TBS)だ。

それぞれで西田は昔気質の落語家、能楽の宗家で人間国宝として登場。落語にしろ、能の謡にしろ、迫力と説得力満点。落語「まんじゅうこわい」の一席では、栗まんじゅうと葛まんじゅうと蕎麦まんじゅうの違いが見えたもんね。いや、もう西田の手元に饅頭が見えたくらい。伝統芸能もお手の物、真のエンターテイナーってこういうことか、とひれ伏す。

そうそう、映画『ゲロッパ!』では弱小暴力団の親分役。ジェームス・ブラウンの「Get Up(I Feel Like Being a)Sex Machine」をステージで見事に歌い上げた。マイクパフォーマンスと小刻みの独特なステップもね。

いつか演じてほしい、あの人を

まだ日本が豊かで、エンタメ業界が良作を生み出すためにお金をしこたま出せた80年代の大作や名画、歴代の大河ドラマにも数多く出演している西田。そして出身地である福島県に、ずっと思いを寄せていることも伝わってくる。そういえば「かすかたれ」という福島弁も西田が教えてくれた言葉だ。

大けがに大病を経て、足も悪くなってしまった西田だが、まだまだこれからできる役はたくさんある。自伝本のエピローグでも「田中角栄をやってみたいなア」と書いている。過去にも実在の人物を多数演じてきた。歴史上の人物はもちろん、冒険家・植村直己や作家・色川武大(阿佐田哲也)、新聞記者・田畑政治も演じた。

うん、西田の角栄、観てみたい。原作は孫崎亨の『アメリカに潰された政治家たち』か、真山仁の『ロッキード』で。中途半端な再現ドラマではなく、戦後はびこって今に連綿とつながる日本の政治の闇に斬りこむ作品にしてほしい。日曜劇場では無理か。WOWOWかNetflixかな。中曽根康弘は石橋蓮司か伊武雅刀あたりで。

(文中敬称略)

吉田 潮 コラムニスト・イラストレーター

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よしだ うしお / Ushio Yoshida

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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