西田敏行「男らしさに囚われない」名優の魅力

「男は黙って〇〇」が美学とされた時代の異端者

このときの西田がとにもかくにも可愛い。オープニング映像での「はにかみ」といい、フードがついたツイード調の衣装・頭頂部に毛糸のぼんぼりがついたキャスケット帽といい、まるでディズニーキャラクターのような可愛らしさ。腕はそこそこ強いが、いかんせん色と食の誘惑にめっぽう弱く、女好きの大飯喰らいという生臭い役どころ。

でも、不思議といやらしさは感じない。駄々をこねたり、文句垂れたり、仲間を裏切ったりと、かなり難ありのキャラにもかかわらず、なぜか憎めない。部分的に観なおしと思ったらハマって、全26話ノンストップ視聴してもうた。

性別と年齢を一瞬で越える術

子供の頃は純粋に面白さに惹かれた。今観てもなお惹かれるのは、西田に「無駄な男らしさ」がないからだと気づく。男として強く賢くかっこよくありたいという願望をまるっと捨て去り、人なつっこさとチャーミングな仕草で中性的な立ち位置に回る。

一瞬にして男に甘える女、あるいは大人に甘える子供になれるのだ。特に、男性へのスキンシップ、ハグやキスをここまで自然にできる俳優は稀有。堺に謝罪のキスをしたり、しなをつくって抱きつくのはおそらく西田のアドリブであり、得意技でもある(西田は劇中、男性の共演者にキスすることが案外多いのよね)。

第23話は、妖怪の術がかかった水を飲んで、なんと西田(と岸部)が妊娠するという話だ。妊娠して芽生えた親心の仕草や表情が、なんともおかしくて愛おしい。西田は性別と年齢の壁を一瞬で越える術を持っているのだ。

妖怪だけが悪く描かれる勧善懲悪ではないところも、このドラマの奥行きの深さである。あの頃のドラマの定番、芥川隆行のナレーションも昭和の宝だったなぁ。

出演作をすべておさらいするわけにはいかないので、私の好きな西田に絞り込んでいこう。まず、世間の枠組みからちょっとはみ出した人や、社会に適応しにくい人を演じるときの西田が好きだ。地位も名誉も権力も威厳も金も資産もない。秀でた才能があるわけでもない、どこにでもいそうな人物をゼロから作り上げる。

有名なところでいえば、映画『天国の駅』。戦後初の女性死刑囚を吉永小百合が演じて話題になったが、彼女を慕う心優しい知的障害の男性・ターボ役。西田の初の自伝本『役者人生、泣き笑い』(河出書房新社)には、当時の思いや驚愕のエピソードが書かれているので、ぜひ読んでほしい。これを読むと、西田が今まで出演してきた作品を全部観たくなってしまうので要注意(すごい数なんだよ……)。

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