尖閣防衛、日本の「切れ目」狙う中国に警戒せよ 現場の頑張りに頼らず日本全体の備えが必要だ

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その後の第5回与党協議(2014年6月10日)で、運用改善で対応するとされ、抜本的対応は回避された。報告書の提言内容に優先度を付け「集団的自衛権の限定容認」を実現したのは画期的で、当時の政治判断を批判はできない。その後「海上警備行動発令手続きの迅速化」等の運用改善のみが実現(2015年5月閣議決定)、「切れ目のない対応を可能とする法制度」の問題は積み残しとなった。7年前の報告書の提言内容は未完のままだ。

「シームレス」な対応のために

この法的な「切れ目」に何ができるか。対応としては、

①海保および(自衛隊の)海上警備行動時の武器使用基準の緩和
②自衛隊活動要件の緩和

の2つがある。これらは両立も可能だ。

①については、海上保安庁法20条2項の「停止命令に従わない船舶への武器使用」の要件緩和が考えられる。ただ、同項は軍艦・政府公船は除外しており、漁船等への対応の点では意味があるが、海警船への対応にはならない。

②の自衛隊活動要件の緩和については、武力攻撃の概念を「組織的計画的な武力行使」に限定せずより広く捉え直して防衛出動を容易にするといった方法や、国際法との整合性に留意しつつ武力攻撃未満の武力行使に自衛隊が自衛権をもって対応する新たな行動類型につき検討するといったことが考えられよう。

中国の海警法制定は思いつきではない。中国は意識的にグレーゾーンを狙う。「武力攻撃」の定義が厳しい日本は、中国にとり、グレーゾーンが広がる魅力的な沃野だ。アメリカ沿岸警備隊は「常に備えよ」(Semper Paratus)をモットーとする。

海保は、中国海警船の領海侵入の度に海保船を張り付け、電光掲示板と無線で繰り返し退去を求める。海保の日々の対処に感謝しつつ、現場の頑張りだけに頼るのではなく、法制に加え、資源配分(予算拡充を含む)、役割分担、内外連携を含め、個々の組織を超え日本全体で効果的に備えることが必要だ。戦略環境が変化し、中国のグレーゾーン活動が活発化する中で、「現状維持」に引きこもる余裕はない。

(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)

地経学ブリーフィング

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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