センバツ「私学と公立の格差」埋まらぬ根本原因 「特待生」や「野球留学」によるアンバランス

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高野連は有識者会議を設置した。メディアは「特待生制度」を「高校野球にふさわしくない」と廃止を訴えたが、10月に出された最終答申では野球特待生制度を1学年5人以内などと定め、限定的ながら容認する結論を出した。

有識者会議のメンバーの写真家、浅井慎平は「継続したいという私学の思いがあった」と語ったが、私学は高野連に圧力をかけたと言われている。ある私学の理事長は筆者に「特待生が認められないなら、私学だけの甲子園大会を独自に開催してもいい」と語った。

2010年2月には、反対に「日本学生野球憲章」の方を改訂して「特待生制度」を条件付きながら容認した。「特待生」は以後減少はしたが、今も存続している。またそれ以外の「野球留学」も続いている。

日本高野連の発表によると、2020年、高校野球の部員数は13万8054人。前年より5813人、4%減少した。2010年からでは3万0434人、18%も減少した。

この背景に、部員数が減少の一途をたどる公立高校と、多くの部員を抱え込む有力私学というアンバランスがある。

私学と公立の「格差」は埋まらないのか

公立校には、劣悪な環境でかろうじて野球を続けている学校がある。選手数が足りず「連合チーム」を組む高校も増えている。一方、私学は野球部専用グラウンドやトレーニング機器を完備した練習施設で毎日練習している。ただし多くの選手は3年間、公式戦にほとんど出場せずスタンドで応援することになる。

曲折はあっただろうが、日本高野連が「特待生」を廃止し「野球留学」に一定の歯止めをかけるとともに、部員数を1学年上限20人程度に規制していれば、野球がしたい中学生は、公立校など無名校に流れたはずだ。私学と公立の格差は是正され、より多くの選手が公式戦に出場できたはずだ。「連合チーム」も減少したはずだ。しかしそうはならなかった。

一昨年「球数制限」議論が起こったときに「球数制限を導入すれば、複数の投手を準備できる私学が強くなり、公立高校は勝てなくなる」という意見が私学出身の指導者から出た。筆者は、私学と公立の格差が絶望的なほど開くのを看過していながら、都合のよい時だけ「公立高校のため」を口にする「名将」たちに、強い違和感を覚えた。

早晩、春夏の甲子園は「私学の大会」になっていくだろう。「野球学校の全国大会」と言い換えてもよい。日本野球の将来を考えても、健全とは言えない。高校野球、甲子園のあり方について再び建設的な議論が起こることを期待したい。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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