NYで「高級イチゴ量産工場」営む日本人の野望 創業4年で55億円を調達、目指すは世界展開

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現在のOishii Farmのイチゴは高級品としての差別化ができているものの、生産量が限られており高価であるがゆえ、一般消費者への浸透は進んでいない。そこで、現在ニューヨーク近郊で建設中の世界最大のイチゴ工場を通じ、今後はスーパーから一般の消費者にも届きやすい供給体制を作っていく。高価格帯だけではない商品ラインナップをそろえ、同社の認知度を高めていく狙いだ。

これを可能にするOishii Farmのもう1つの強みが、自社開発した自動気象管理システムだ。温度、湿度、二酸化炭素量、日長、光の波長、潅水量など、作物の生育に必要な環境をすべてコントロールできる。詳細は明かせないが、外部研究機関や専門家の知見を生かし独自システムを作り上げているという。

インタビューに答える古賀CEO(撮影:今井康一)

これにより、一般的な農業試験場で数百年かかるような実験を1年程度で完遂することも可能になった。

最適な栽培方法をハイスピードで試行錯誤し、ゆくゆくはOishii Farmが独自の品種を育種することも想定する。

「高級で美味しいイチゴの次は、世界中の人に食べてもらえるイチゴ。すべての環境面をコントロールできる強みを生かし、農業を変えたい」(古賀CEO)

外部環境に左右されない強み

世界人口は増加の一途をたどるものの、自然災害の深刻化で農業用地は年々減少している。今後は新鮮で美味しい野菜やフルーツを手に入れること自体が難しくなるかもしれない。

現在のところ、Oishii Farmが手がける作物はイチゴ1種類、生産拠点もニューヨーク近郊にとどまっている。量産化や再現性の担保という難題はクリアしたものの、世界展開や、野菜・果物などイチゴ以外の複数作物の生産を実現するには越えなければいけないハードルはある。

ただ、Oishii Farmの手がける植物工場にはあらゆる地域の環境や消費者の嗜好に順応できる素養がありそうだ。水と電力があれば外部の環境に左右されることなく通年で栽培を行える。水も循環利用することができ、農薬も使わない。これを世界中で建設できれば、今までと異なる農業の可能性を拓けるだろう。

世界中の多くの人々にOishii Farmのイチゴを届け、農業界のテスラを目指す。壮大なミッションの実現に向けニューヨークで奮闘する日本人の挑戦は始まったばかりだ。

菊地 悠人 東洋経済 記者

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きくち ゆうと / Yuto Kikuchi

早稲田大学卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者を経て2017年10月から東洋経済オンライン編集部。2020年7月よりIT・ゲーム業界の担当記者に。

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