コロナ禍で入退院も困難な「認知症」の過酷 自粛生活で認知機能低下、介護者のストレスも深刻

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行動制限や環境の変化から、コロナに感染した認知症の人は症状が悪化することがある。4月にクラスターが発生した特別養護老人ホームの「北砂ホーム」(東京都江東区)の和田敬子施設長は、退院後の認知症の入居者についてこう話す。

「隔離期間が長く活動範囲も限られていたため、今まで活発だった人も元気がなくなり、認知機能も落ちていた」

同施設ではクラスター発生時、感染の危険がある区域と安全な区域を分けるゾーニングを行ったが、区域を越えて動いてしまう認知症の入居者への対応に苦慮した。ただ、認知症の人の「徘徊」は、本人にとっては理由や目的がある行為で、それに寄り添うことも治療の一環とされる。

「何でもダメでは、本人にとっても介護者にとってもストレスが大きい。危険なゾーンと安全なゾーン以外に自由に歩ける余剰空間を作って、認知症の人が自由に動けるように工夫した」(和田施設長)

面会禁止による認知機能の低下

しかし、スペースの限られた病院や感染管理の専門家がいない介護施設では、厳密なゾーニングや動き回れるスペースを確保できない場合がほとんどだ。そのため行動は限りなく制限される。

東京都健康長寿医療センターは医療従事者向けに、「認知症患者における新型コロナウイルス感染対策とケアマニュアル」を公開。「個室での感染隔離を継続することや、面会禁止に伴う家族とのかかわりの減少により、認知機能や筋力低下をきたし、転倒するリスクも高まる」と注意喚起し、早期退院を促している。

感染だけでなく、自粛生活が、認知症の人とその家族に与える影響は大きい。在宅療養の場合は、感染のリスクからデイサービスや訪問介護の利用を控えるケースが増えているからだ。

前出の髙瀬医師が訪問診療している一人暮らしの女性(90代)は、感染を心配した家族から相談があり、デイサービスに行く回数を減らした。医師らが関わる前、この女性は風呂に2年間入れていない状態で、デイサービスに行くことも拒否していた。髙瀬医師や周囲のサポートにより5年かけてデイに通えるようになり、今では通所を楽しみにしていた。その矢先にコロナに直面した。

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