日本の食品「輸入依存」で連鎖する巨大なリスク サバなど一定水準の輸入はもう期待できない

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日本の食料自給率は38%。つまり、単純計算では6割以上を輸入に頼っている。生産地やその周辺で天候、労働環境、流通環境などに大きな変化があれば、野菜、魚、肉、果物、穀物などの輸入がいつ影響を受けてもおかしくない。

少なくとも38%という国内の食料自給率を引き上げていかなければ、今後、世界的な食料争奪戦が激しくなるなかで、食料安定調達への不安は増大する一方だ。

前出のサバについては、日本の沿岸で獲れた小ぶりのサバは、数年前まではナイジェリアなどアフリカ向けに輸出されることが多かったが、昨年は、輸出先が大きく変わり、ベトナム、タイが1位、2位となった。輸出した国産サバをベトナムやタイの工場で缶詰に加工して、それを再び日本が輸入しているケースが多いのだ。

そうまでしてサバにこだわる日本国内の需要の高さに驚くが、日本沿岸で獲れたサバをわざわざ海外に運んで加工して、それを輸入しているという現実に愕然としてしまった。2018年5月の時点では、国内で販売されていた輸入サバ缶詰の品目数は3品目だったが、翌2019年5月には13品目となり、全販売品目数36の3割以上を占めるまでになったという指摘もある。

「国消国産」の政策課題も

現在、日本国内では、鮮魚として出回る国内産サバ、高価格の国内有名ブランドサバ、輸入されたノルウェー産サバ、ノルウェー産サバをアジアで加工した輸入塩サバ、国内産原料・国内製造のサバ缶詰、国内産原料・海外製造の輸入サバ缶詰といった、さまざまなサバ製品が国内に流通しているのである。この複雑極まりない図式のなかで、ノルウェーやタイ、ベトナムなどへの依存はますます高まっていくのだろうか。

政府は農林水産物輸出の拡大計画をアピールしている。それはそれで結構だが、耕作放棄地解消や生産力向上など国内での生産体制拡充策、農業、漁業所得向上策など、食料自給率を高めるために欠かせない課題は山積している。

最近は、国民が必要とするものはその国で生産する「国消国産」という考え方が注目されるようになったが、まさに大きな政策課題である。年内に行われる総選挙では、将来の食料問題を真正面から取り上げ、徹底的な政策論争をしてほしいものだ。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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