うつのサイン「見逃して重症化する人」の盲点 不安緩和に効く妙薬は「何かに没頭する」こと

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――「いったい」も良くないことですか?

「いったい」は、絶対に知りえない未来へ焦点が向いた質問です。「いったい自分の仕事はどうなるのか」、「いったい、いつ治療薬ができるのか」……こうした問いの答えは、そのときにならなければ知りようがないため、やはりイライラが増幅してしまうんですね。

大切なことは、「今を楽しむ」、「できることしかできないのだから、できることだけに取り組む」というマインドです。人は不安が高まると、すぐにでもその気持ちをゼロに近づけようとしてしまいがちです。しかし、それは極めて困難なことであり、さらなる不安を生んでしまうのです。

「何かに没頭する」だけで不安は減少する

――未来への不安は未来にならなければ解消できない、と。やっぱり横に置いておくしかない。

そのとおりです。それどころか、未来ではそのまた未来への不安が、必ず出現します。そこで有効なのがマインドフルネス思考と呼ばれる「今を楽しむ」という考え方ですが、難しく考える必要はありません。好きな映画を観る、作りたかった料理にチャレンジする、好きな運動をする――、いま自分ができること、したいことに没頭するだけで、人の不安やイライラは少なからず減少します。

一方で、「今を楽しむものが見当たらない」なんて方も患者さんの中にはいらっしゃいます。そうした方に対して私は、無理をして新たな趣味を見つけようとするのではなく、「新型コロナウイルスが収束した際のやりたいことリスト」を作って貰っています。

すると、実はその中に、コロナ禍の今でもできることが存在していたり、リストの中身について診察の中で話し合うことで気持ちが落ち着いたり、そもそもリストを作成すること自体が「できること」であるため、「やってみて良かったです」、「新型コロナが収束した後も、定期的にリストを作ってみたい」などと話される患者さんもいらっしゃるのです。「今を楽しむ」ようにする一方で、「解決できないこと」にはしない。それが気持ちを落ち着かせるうえで、大切なことなんですね。

山下 悠毅(やました・ゆうき)
1977年生まれ。精神科医。ライフサポートクリニック院長。専門は依存症全般、パーソナリティー障害。さまざまな企業においてコーチングやマーケティングの研修講師としても活躍する。極真空手の選手としても知られる。著書に『いい子をやめれば幸せになれる』(弘文堂)など。
我妻 弘崇 フリーライター

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あづま ひろたか / Hirotaka Aduma

1980年北海道帯広市生まれ。東京都目黒区で育つ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始する。2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターとなる。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開している。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

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