駒大・大八木監督「62歳」何ともエモい指導の神髄 「男だろ!」はスイッチを入れる記号にすぎない
選手への感謝の思いが凝縮されたようなシーンがありました。最終10区を走る3年生の石川拓慎選手が、1位の創価大をとらえようかという局面です。運営管理車からは、大八木監督の檄が飛びます。そしてまさに「男だろ!」が出るか、というタイミングで、大八木監督は応援マイクを後部座席に乗り込んでいた学生に渡したのです。
心憎いほどエモい気配り
マイクを受け取ったのは4年生主務の青山尚大さん。彼は快走する後輩に「3年間ありがとう!」と涙ながらに語りかけました。アンカーを任された石川選手は、今まで世話を焼いてもらった先輩主務からの声援を受けたあと、胸をはって加速しました。
劇的な逆転でゴールテープを切った後のインタビューで石川選手は、先輩の声援に「実は走りながら泣きそうになっちゃって。今も思い出して泣きそうなんですけど」と、感極まって話していました。
「青山はよくやってくれた。4年になって、選手のために陰ひなたになって支えてくれた」。このときの心境について尋ねると、大八木監督は4年生主務に対する感謝の意を口にしました。選手の頑張りだけでなく、マネージャーの思いもすくい取る。なんとも心憎い気配りです。
エモい。大八木監督のきめ細やかな「感性」と気配りを今風に表現すると、エモいのです。このエモさに、今どきの学生もちゃんとついてくるんだなぁ、と確信した瞬間でした。
こわもての指導がクローズアップされがちですが、令和の大八木マジックは、サーバントリーダーシップ、心理的安全性、アドラー心理学といった組織論のセオリーと照らし合わせても、見事に理にかなっていました。というか、彼の根幹にある「感性」こそが指導の真骨頂で、今の学生に伝わるように「接し方」をアップデートした。これが令和の大八木マジックについての正しい理解といえるでしょう。
「男だろ!」が、駒大陸上部員にとってマジックワードであるのは間違いありません。しかし、それは「男だろ!」という言葉の持つ意味そのものではなく、スイッチを入れる記号として機能しているのです。しかも、その言葉でスイッチが入るには、日々のコミュニケーションにおいて、選手たちが監督の自分たちへの思いを実感できているからにほかなりません。厳しいなかにもエモさが光る。だからこそ「男だろ!」が伝家の宝刀として、ここぞという場面で力水となるのです。
後編:駒大・大八木監督「私の本気を選手に伝えている」(2021年3月28日配信)
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