駒大・大八木監督「62歳」何ともエモい指導の神髄 「男だろ!」はスイッチを入れる記号にすぎない

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大八木監督は練習中と寮でコミュニケーションを、大げさにいうと180度変えているのです。練習では厳しくて近寄りがたい存在だからこそ、寮では打って変わって気さくに振る舞う。こうして学生との関係性を築いていくようになりました。

遊びに来たOBたちが「優しくなりましたねー。自分のときとは全然違う。うらやましすぎる」と口を揃えて言うくらいですから、寮では、そうとう話しやすいオジサンであることを意識しているのでしょう。「最近の子は、なんでも『〜っす!』って距離が近い。ほとんどタメ口です」と、大八木監督は笑いますが、その身近な距離感を監督自身が率先して作り出しているわけです。

「自分から『褒められないとヤル気がでません』と言ってくる子もいる」とも言います。冗談交じりだとしても体育会運動部で監督にこんな発言できるのは、なかなかに風通しのいい環境といえます。いわゆる「心理的安全性」が担保されている証拠です。心理的安全性(Psychological Safety)とは、“他人の反応におびえたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出すことのできる環境を提供する”という心理学用語です。あのグーグルが、最もパフォーマンスを発揮するチームの条件として発表したことで、一気に注目を集めるようになりました。

寮での自由な対話が土台となっているからこそ、厳しい本気の指導という信念を曲げることなく貫けるのでしょう。まさにメリハリです。

令和の大八木節は一味違う

箱根駅伝の声援を注視すると、大八木監督がいかにその選手が奮い立つような声援を送っているのかがよくわかります。2区を走ったエースの田澤廉選手には、ペースを上げるよう大八木監督らしい強めの檄を飛ばしますが、5区の鈴木芽吹選手には「我慢して! これもお前の勉強だ!」と励ましの声を送ります。1年生で山登りを任された重圧を和らげるような声援に、テレビ中継のアナウンサーが「令和の大八木節は一味違います!」と実況するほどでした。

また6区の花崎悠紀選手(3年生)が区間賞の走りを見せ、たすきを渡したそのときには、「ご苦労さん!」と声をかけました。走り終わった選手にまでねぎらいの声を送り、その選手がガッツポーズで応える名シーン。選手への感謝をきちんと言葉にしています。

アドラー心理学は、人を育てるには「上から褒める」のではなく「横から勇気づける」ことが有効だと説きます。そして人はどんなときに最も勇気が湧くかといえば、組織への貢献を感謝されたときだとされます。「男だろ!」ばかりが注目されがちですが、大八木監督のこうした声援は、アドラー心理学のセオリーを体現しているものです。

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