“刺さる”DMで効果20倍、富士ゼロックスの「物販」卒業
「費用対効果」見える化で媒体価値が急浮上
大量かつ高速に、1枚1枚異なる内容で印刷できるデジタル印刷機の強みが発揮されるのは、次のステップだ。まずは個人名で呼びかけ、親近感を持たせる。同じイタリア旅行を提案するにしても、性別や家族形態などの属性によって、文面や書体、字の大きさを1枚1枚変えて印刷。文末の「追伸」で、「この旅をアレンジしてくれたのは品川店です」などと、近隣の店舗名をさりげなく添えた。もはやDMではなく、1人1人に宛てた旅行企画書だ。
結果は、コストを3分の1に抑えつつ効果を維持--どころか、リーマンショック前の07年を上回った。DMを受け取った消費者は、これを自分のための提案だと受け取り、消費行動へと歩を進めていったのだ。
実際、今DMの価値が見直されてきている。これまでDMといえば、同一の版で大量に刷る印刷物のことだった。だが印刷機のデジタル化により、費用対効果(ROI)が最も高い宣伝手法へと、その姿を変えつつある。JTBトラベランドの例ではROIは915%だった。かけた費用に対し、9倍以上の利益を得られたということになる。
強みは受動的な消費者にアプローチできる点だ。テレビや新聞、雑誌といったマス媒体は、老若男女や所得、家族形態もさまざまな消費者を対象とする。企業やブランドの「認知」には向いても、商品の「購買」には結び付きにくい。インターネット広告に至っては「クリックする」という消費者の行動を必要とするため、ハードルはかなり高くなる。
個人に届けるという手段ではEメールもあるが、今や1日に届くメール広告の数はかなりの数になる。ワンクリックで消去されかねないEメールと比べ、実際に手に取る瞬間が存在するDMは、工夫次第で開封率を高めることができる。
もちろん、リスクもある。一歩間違えれば不快感を植え付け、クレームを誘発させかねない。プロダクションサービスマーケティング部の杉田晴紀部長は「個を重視する欧米と比べ日本は私(わたくし)と公(おおやけ)にけじめをつける傾向が強い。効果的な“距離の取り方”に慎重を期している」という。コスト圧縮を大きなウリにしつつ、専門家を社内に抱えるのはそのためだ。