“刺さる”DMで効果20倍、富士ゼロックスの「物販」卒業
東京都大田区在住の会社員、田中太郎さん(仮名)宛に1枚の絵はがきが届いたのは一昨年秋のこと。ボッティチェリの名画『ヴィーナスの誕生』に心引かれ裏返してみると、「田中さま」との呼びかけの後、イタリア旅行の思い出をつづった手書き風の文面が現れた。
同じ日、さいたま市在住の主婦、富士花子さん(仮名)には、南米で遺跡を発掘する研究者からの便りが届いた。古代史に興味がある富士さんは、以前から一人で世界各地を訪れてきた。ダイレクトメール(DM)であることはわかったが、探求心をくすぐられ、ゴミ箱行きの束からその1枚をスッと引き抜いた。
9900通りのDMで来店率23%、成約8割
これは、旅行会社のJTBトラベランドが出したDM、9900通りの中の2例だ。友人からの便りを想定したつくりになっており、DMでありながら、旅先からの絵はがきのように見える。切手を模したイラストや個人名入りの文面など、こだわりが随所にちりばめられている。
仕掛け人は、大手複写機メーカーの富士ゼロックス(以下、ゼロックス)。最先端のデジタル印刷機が入る自社の出力センターを活用し、最近、DM受注に力を入れている。
一般的に反応率1%未満といわれるDMだが、JTBトラベランドのケースでは驚異の反応(来店)率23%を記録した。さらに来店客の8割が旅行商品を契約し、平均単価は通常の3倍以上という成果を上げた。
クライアントであるJTBトラベランドの北山幹夫・経営企画専任部長は、二つの理由からゼロックスのDMサービス「ダイレクト・トゥー・ワン」の採用を決めた。それは低コストと一貫したサービスだ。
2008年、折しもの不況で旅行業界は不振にあえいでいた。売り上げが伸びない中、利益を出すには費用を切り詰めるよりほかない。矛先は宣伝費に向かった。「経営層の注文は、費用を3分の1に絞ったうえで効果は維持してほしいというものだった」(北山氏)。しかも自社が不得手とする団塊世代でのシェアを上げ、売り上げを増やしたいという。