中国海警法は22条以外にも「国家主権」への言及がみられる(1条、12条1号など)。「国家安全保障」や「防衛」への言及もみられる(4条、5条、12条2号など)。中国海警法83条は「海警機関は中華人民共和国国防法、中華人民共和国人民武装警察法等の関係法令、軍事法規および中央軍事委員会の命令に基づき防衛作戦等の任務を執行する」と規定している。中国海警法は、中国海警が中国の対外的な主権が侵害される事態に対処する権限を有すること、すなわち国家安全保障に資する活動(軍事活動)を行う権限を有することを明文で規定している。
中国海警法の制定によって、中国海警は、海上法執行機関であり、国家安全保障を担う機関でもあることの明確化が図られたといえる。
日本の事態対処のあり方
これまで日本は尖閣諸島周辺海域で発生している事案・事態に海上保安庁が海上での法執行活動で対処してきた。これからも同じように対処していくのか、それとも、情勢の変化を見極め、国家安全保障のための活動(軍事活動)で対処していくのか。
海上での法執行活動は、基本的には、犯罪を予防し、犯罪を捜査し、犯人が明らかとなれば逮捕して刑事司法手続きに乗せることを目的としている。「海の秩序を守る」ための活動である。
海上での法執行活動には、領域主権を確保し、領土保全の侵害を排除するなどの国家安全保障に資する側面もあるが、これらはあくまでも副次的効果である。海上での法執行活動は「領土を守る」ことを直接の目的とするものではない。
中国海警法の制定以降、日本では国内法整備の動きがある。そこでの頻出用語は「主権の確保」や「領域の保全」である。そのような目的を掲げる法律であっても、制定されると、その適用・執行は海上での法執行活動として行われていくことになる。しかし、重要なのは、そのような活動が国際法の観点から海上での法執行活動として評価できるような「実質」を備えているか否かである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら