日本は尖閣諸島周辺で中国海警にどう備えるか 企図する戦略を読み取り、事態を微細に想定せよ

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中国は、国連海洋法条約は国際海洋法のすべての事項を規律するものではなく、その射程は限定的であるとの理解に立つ。フィリピンが開始した南シナ海仲裁事件の仲裁手続きに関連して、中国は、南シナ海の九段線の内側で有する「歴史的権利」は条約の採択に先行して確立したのであり、国連海洋法条約は先行して確立したそのような権利を否定することはできないと主張した。

2014年7月に示された仲裁判断は中国の「歴史的権利」主張の法的効果を否定した。国連海洋法条約を離れての独自の主張が仲裁判断で退けられたにもかかわらず、中国はそのような主張を現在も維持している。

中国海警の法執行活動と軍事活動

中国海警の海上での法執行活動については、第4章「海上行政法執行」と第5章「海上犯罪捜査」に詳細に規定されている。これらの規定は世界各国の海上法執行機関の組織法・作用法に関する調査・研究の成果と考えられる。

中国海警法21条は中国管轄海域における外国軍艦・政府公用船舶の「(中国の)法律、法規に違反する行為」に対する執行措置について規定している。同条に基づく執行措置が、国連海洋法条約25条1項に基づく中国の領海で「無害でない通航」を行う船舶に対する「保護権の行使」の範囲にとどまるものであるのか否か、条文からは明らかではない。

ただ、中国海警法21条の適用範囲は「中国管轄海域」である。中国の領海外にある外国軍艦・政府公用船舶に対する執行措置は、これらの船舶が国際法上有する執行管轄権からの免除と整合するものではない。

中国海警法22条等は中国海警による「武器の使用」について規定している。国際法上、海上での法執行活動における武器の使用は法執行活動の実効性を担保するために必要で合理的な範囲内のものであれば許容される。中国海警法22条等の武器使用規定は、基本的には国際法における「武器の使用」に関する規範をふまえたものである。

ただ、中国海警法22条には問題点もある。同条は中国の「国家主権」を侵害する行為に対する「武器の使用」についても規定している。これは、状況によっては、国家間紛争における「武力の行使」にあたるものである。「武力の行使」は国連憲章や武力紛争法によって規律される。国際法における性質がまったく異なる権限行使を1つの条文で同じように規定している。中国海警法は注意深く読む必要がある。

次ページ22条以外にもみられる「国家主権」への言及
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