もしも徳川家康が甦って日本の首相になったら 教養エンタメ小説が描く英雄たちのコロナ対応

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4月1日現在、東京の1日の感染者数は300人を超え、累計の感染者数はすでに1万人を超えていた。死者は233人。日本で初の新型コロナの感染者が確認されてからたった2カ月半で、全国では3万人の感染者と、死者が800人にのぼっていた。未知のウイルスの感染急拡大と、国のトップである総理大臣が感染し、死亡するという前代未聞の事態に国民は大混乱に陥っていた。

しかし、彼ら戦乱の世で生きてきた者にとって今の日本の状況は、危機的状況でも何でもないのかもしれない。

「民が国の中心」の現代国家

秀吉の言葉に木村は戸惑っていた。たしかに封建社会に生きた者を相手に国民を説くのは難しい。しかし、木村に残された時間は少なかった。木村は声を振り絞った。

「今の時代の政治のありかたは議会制民主主義と申しまして、政治家は国民から選挙で選ばれます。その選挙で選ばれた者の合議によって国の方針が定まります。すなわち、太閤殿下のおっしゃる民が国の中心にあるのです。

しかし、ここのところ、この仕組みの良いところよりも悪いところの方が目立つようになってきました。国民は政治に不信を抱き、政治家は選挙に通るために国民に媚び、『国民のための』と耳ざわりのいい政策をその場しのぎのように打ち出し、国家百年(こっかひゃくねん)の大計(たいけい)のような勇気ある政治決断を先送りし続けてきました。

私は長らくこの問題を考え、改革を行うためには今までのやりかたではだめだ、何も変わらない、と思い至り、過去の英傑から知恵をいただくことを思いつきました。そして、人工知能による英傑の復活という計画をたて、密かに長年研究をさせて参りました。

今回、この新型コロナで国を率いる総理大臣が亡くなり、次の指導者が決まらず混乱を極める中、今こそ国民の信頼を取り戻し、この国を改革する最後の機会だと思った次第です。そこで、国会で次の総理大臣を天皇陛下にご一任することを決し、私自ら陛下に直訴し、みなさまがたを復活させ、内閣を組閣したのでございます」

木村は苦しい息を継ぎながら一気に話した。話し終わったあと激しく咳き込み、まるで水面に浮き出た鯉のように口をパクパクとさせていた。

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