今の日本人は、本当に教養がないのか? 三井物産・槍田会長×ライフネット生命・出口会長(1)

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出口:僕はまだ会社が赤字ですので(笑)、これから黒字にして初めて経営者だと言えるのだと思っていますが、どんなビジネスであれ、人間と人間のつくる社会を相手にするものですし、ひとりでは何もできない。ライフネット生命は小さい会社ですが、90人くらい社員がいます。その90人に元気に明るく楽しく働いてもらうためには、まず人間のことをよく知らなければいけない。「教養とは人間を知ることであり、人間がつくる社会を知ることである」と言いましたが、やはりそれを知らなければ経営者にはなれないと思います。

――ライフネット生命は90人ですから一人ひとりの顔も浮かびやすいですが、三井物産くらい大きい会社になるとそれは難しいでしょうね。

槍田:1人対数千人ということになってしまいますから、ダイレクトに見るのは不可能ですね。ですから大事なのは組織の要所要所で束ねるポジションの人たちの働きになるわけです。

出口:遊牧民もそれと似たような考え方をしますよ。モンゴルが典型ですが、10人隊長、100人隊長、1000人隊長、万人隊長というように、組織を10進法で考えるのです。つまり、万人隊長になっても、直属の10人しか見てはいけない。本当は万人隊長には1万人の部下がいるのですが、部下が1万人いると思ってはいけない。「10人の1000人隊長だけをしっかり見るんやで、気ィ散らしたらあかんで」ということです。

そうすると、優れた10人隊長なら、瞬時に万人隊長にしても務まるから、すごく柔軟で組織ができるんですよね。

槍田:当社の管理職のいちばん大きな仕事は、チームメンバー一人ひとりがどんな気持ちで仕事をしているのかを知ることだと言ってきました。きれいな言葉でいうと、本当に満足感をもって幸せに仕事しているのかどうか。かつてはその部分を軽視して、「数字さえ上げればいいんだろう」というスタイルのマネジャーも少なからずいましたが、私が社長になってからは、管理職の仕事というのは半分以上が人のことをしっかり見ることだと言い続けています。あとは若い人、新入社員、女性社員20人くらいと車座になって話す会もたくさん開きましたね。「悪いボスがいたら言ってこい」と牽制したりして(笑)。

利益よりも大切なこと

――「数字を追う」というカルチャーが強かったところから、人材育成のほうが大事だというふうに舵を切ったのは、かなり大きい転換でした。

槍田:それはたまたま私の場合、特殊な事情があったからですよ。つまり会社が2度大きな事件を起こしたからです。だから本当に人材育成が大事だと思ったのです。つまり、私腹を肥やそうとしたわけでもないのに、売り上げを上げなければいけないという思いに駆られて、入り込んではならない領域にまで足を踏み入れてまで会社の利益に貢献しようとした社員がいた。その結果として、罪を負って会社を辞める、ということが2度も起こってしまった。どうしてそんなことが起こったのか、よく考えました。ここはやっぱり会社が「こういう姿勢で仕事をしてほしい」ということをそうとう強烈に打ち出さないと、また間違えてしまう。そこで今までとは逆の方向に強めに振ったわけです。

今だから言いますが、一部の人からは「そんなことを言ったらみんな仕事をしなくなるぞ」「利益が出なくなるぞ」という警告もありました。でもいちばん大事なことは、社員がきちんと納得してプライドを持って仕事をすることです。それによって利益が大きく出ないことがあってもいい。それはまさに経営者が我慢しなければいけないことですよ。やはり経営者というものは、たくさん利益を上げて賞賛されるとうれしいものです。でもそれは経営者のエゴです。

出口:そうでしたか。こんなトップがいたら、社員のみなさんは幸せですね。

(構成:長山清子、写真:大澤 誠)

※ 続きは7月3日に掲載します

東洋経済オンライン編集部

ベテランから若手まで個性的な部員がそろう編集部。編集作業が中心だが、もちろん取材もこなします(画像はイメージです)

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