台湾オードリー・タンが目指す「革命」の超本質 ソーシャル・イノベーションが必要な理由
それならばもっと体系的に理解してみたいと思い、オードリーに、私のようなソーシャル・イノベーション入門者におすすめの本を5冊教えてもらった。おそらく取材でよく聞かれる質問の1つなのだろう。彼女は手元におすすめ本のリストがすでにあったようで、即答してくれた。
ソーシャル・イノベーション入門者におすすめの本5冊
(原題:Jargon File エリック・レイモンド編纂 日本語版は2002年にアスキーより出版)
「ESR(アメリカの有名なプログラマーであるエリック・レイモンドの呼び名)の本。彼が書いたわけではなく編集した作品で、いわゆるハッカーの辞典です。ハッカーという概念が現れてからこれまで、ハッカーコミュニティの中でよく使われている言葉の定義がまとめられています。本の中では『ハッカーコミュニティには博士号を取得した人はたくさんいるからそう特別ではないけど、中退して自主学習を終えた人は尊重する』と書いてあって、進学するか悩んでいた頃の私に大きな影響を与えてくれました。ハッカーがまだ情報セキュリティの影響を受けていない頃からの歴史や背景が書いてあるので、シビックハッカーになりたい人にはおすすめです」
(サム・ウィリアムズ/リチャード・ストールマン著 日本語版は未発売
「ハッカーコミュニティの中で影響力を持つRMS(アメリカの有名なプログラマー、リチャード・マシュー・ストールマンの呼び名)という人物の自伝です。2.0となっているのは、人が彼のために書いたものを、本人が書き直したからです。彼は他人が彼についての伝記を書く際、一部の著作財産権を放棄するよう求め、別の人が改作できるようにしたのです。私が取材を受けたものを公開し、皆に改作できるようにしているのはRMSに啓発を受けたものです。彼はGPL(フリーソフトウェアについて定めたライセンスの1つ。GNUともいう)など多くのフリーソフト運動の主要提起人ですから、とても説得力のある自伝ですよ」
(マニュエル・カステル著 日本語版は未発売)
「3冊目と次の4冊目は同じ作者、マニュエル・カステルによるものです。この本は私たちが現在運用している考え方、たとえばユーモアを持ってフェイクインフォメーション対策に当たるとか、新型コロナウイルス対策の際に用いた「fast(速さ)」「fair(公平さ)」「fun(楽しさ)」という3つの「f」などもそうです。インターネット社会学や社会心理学といった、以前は別々の学問だったものを初めてつなげて考えた本だと言っていいでしょう」
(マニュエル・カステル著 日本語版は未発売)
「マニュエル・カステルはこの本で、③の『Communication Power』で取り上げた理論をウォール街の占拠やスペインの15M(キンセエメ)運動、アラブの春など実際の占拠運動に運用し、分析しました。私は〈ひまわり学生運動〉のとき、ここに書かれていた数々の考え方を意識して運用に当たっていました。たとえば『デモの焦点を抗議に置かず、皆が新しい民主主義の形を体験できるようにする』といったこともそうです。よりたくさんの人々に体験してもらえれば、皆も民主主義とは投票するだけではなく、もっと前に進めるんだということに気づくでしょう。あのとき、抗議している人たちのことをそのほかの人たちが見ているだけだったら、何も変わりませんでした。そういう意味で、これも大規模なソーシャル・イノベーションだったと言えるでしょう」
(原題:Radical Markets エリック・A・ポズナー、E・グレン・ワイル著 日本語版は2019年に東洋経済新報社より出版)
「私も理事を務めているソーシャル・イノベーションの基金会〔RxC(RadicalxChange)〕の発起人の1人であるE・グレン・ワイルがエリック・A・ポズナーとともに書いた本です。彼らが作った〔2次投票(Quadratic Voting)〕などの新しい概念は、私たちも〈総統杯ハッカソン〉で採用しています。このような考え方によれば、経済と社会から択一で選ぶ必要はなくなります。これらの考え方は、私がソーシャル・イノベーションに従事する際に取り入れていますし、たとえばよく知られている仮想通貨の1つ〔イーサリアム(Ethereum)〕の考案者であるプログラマーのヴィタリック・ブテリン──彼もこの基金会の理事の1人ですが──といった、ほかのルール設計者たちにも影響を与えています」
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