成功した人が「見る前に跳べ」と本気で語る理由 想像を超えるアイデアのつくり方
同じようなアイデアは、自分以外にも思いつくことができる。でも、その実現を阻む壁を乗り越えられるのは自分しかいないかもしれないし、乗り越え方に自分らしさが出せるかもしれない。そう思うと、1回やってみて失敗するぐらいのほうが、やりがいのある面白いアイデアのように思えるのだ。
なかなか壁を突破できず、2回、3回とやり方を練り直すことも多い。これは苦しいと言えば苦しいが、「ここから先はどんなライバルも脱落するはずだ」と思えるレベルに突入すると、逆にファイトが湧いてくる。
例えばNHKの「プロジェクトX」のような番組では、企業の開発チームが新製品を完成させるまでの失敗の連続が、“どん底”のように描かれる。その苦境から立ち上がり、根性やチームワークではい上がるストーリーだ。
でも、あれが現実の雰囲気を再現しているとは私には思えない。実際にそれを手がけた人たちは、どんなに失敗を重ねても結構それを楽しんでいたのではないだろうか。あるいはそのプロセスを楽しいと思えるチームがイノベーションを生み出すのではないだろうか。私にはそんなふうに思える。
見る前に跳べ
失敗やダメ出しを怖がる人は、そもそもアイデアの実行になかなか着手しない。実はそれがいちばんの問題だ。
慎重な行動を美徳と考えて「自分は熟考型なんだ」などと思っている人もいるだろう。しかし「石橋をたたいても渡らない」とでも言わんばかりに時間をかけて熟考していると、打席に立つ回数は増えない。「見る前に跳べ」という題名の詩や小説があるが、いいアイデアを思いついたら様子を見ていないで手を動かすことだ。手を動かしていれば、たとえ失敗しても熟考の何倍もの発見があるだろう。
料理の素材と同じで、アイデアも鮮度が大事だ。思いついたら、フレッシュなうちに手を動かして調理を始めたほうがいい。「この葡萄はなぜすっぱいのか」と食べもしないで理屈を立てている時間があったら、はしごを持ってくるでも何でもして、とにかく葡萄を取ってしまったほうがいい。
そういうスピード感の重要性を思い知らされるエピソードがある。2014年に発表された「GAN」というAIアルゴリズムの研究をめぐる話だ。
少し前から、「この世に存在しない人間の顔写真」をネット上でよく見かけるようになった。存在しないのだから「写真」と呼ぶべきではないかもしれないが、どう見ても実在するようにしか思えない不思議な画像だ。それを作るのに使われているのが「GAN」(Generative Adversarial Networks=敵対的生成ネットワーク)である。
複雑そうな名前だが、アイデア自体はシンプルだ。用意するのは、2つの相反するニューラルネットワークだ。1つは、何かを「本物」っぽく作ろうとするニューラルネットワーク。もう1つは、それが作ったものの「うそ」を見抜こうとするニューラルネットワーク。いわば泥棒と警官のような関係だと思えばいいだろう。
一方が本物と見分けのつかない精巧な偽札を懸命に作ろうとするのに対して、もう一方は偽札と本物の違いを懸命に見つけようとする。それを戦わせるから「敵対的」という。戦いのレベルが上がるにしたがって、「偽物」はどんどん「本物」に近づいていく。そうやって作ったのが、「この世に存在しないけど超リアルな人間の顔」だ。
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