昼夜問わず「スマホを使い続ける生活」の大弊害 なぜ「メンタル不調に悩む日本人」が激増したか

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実は、ひきこもり生活による運動不足、太陽光を浴びない生活、他人との会話のない暮らしというのは、セロトニンという神経伝達物質(脳内物質)を減らしてしまう要素になるのです。

セロトニンは脳内にあるセロトニン神経から分泌され、私たちの精神状態を健やかに保つという大事な役割を果たしています。セロトニンが脳内にたっぷり存在していれば、私たちはちょっとやそっとのストレスにも動じることはありません。イヤなことがあってもすぐに気分転換できたり、失敗してもくじけずにチャレンジを繰り返せる、いわば「ストレスフリー」で過ごせるのは、セロトニンのおかげといってもいいでしょう。

セロトニン神経は、太陽の光を浴び、適度な運動をして、周囲の人と楽しく触れ合うことで活性化されていきます。しかし、「新しい生活様式」が求められ、ひきこもり生活が続いて、孤独な状態で家の中にじっとしていると、セロトニン神経はしだいに弱っていき、セロトニンの分泌量が減ってストレスに弱い脳になってしまいます。セロトニン神経はストレスに弱いという性質を持っているのです。

新型コロナの自粛生活によって、コロナうつ、コロナストレスというメンタルヘルスの問題が浮き彫りになったのは、セロトニン神経の働きからすると当然といってもいいでしょう。

「長期の引きこもり」が心を蝕む

セロトニンがさらに欠乏していけば、朝の目覚めが悪くなり、イヤなことがあっても気分転換をしにくくなります。テレビやネットで流される暗いニュースを見聞きしては、ネガティブな気分になって落ち込むばかり。そうなると、外に出て元気に動き回ろうとも、友人と会って話そうとも思えず、さらに悪循環に陥ってしまいます。やがては、ささいなことでキレやすくもなるでしょうし、自律神経失調症にもなってしまいます。最終的には、本当のうつ病になる恐れもあるのです。

これまでも、私はセロトニン神経の研究者として、パソコンやスマートフォン中心のデジタル生活がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすということを主張してきました。それでもまだ、コロナ以前では、会社への通勤や買い物がそこそこ運動になりますし、会社の同僚や近所の人とのおしゃべりが、なんとかセロトニン神経の活性化に役立っていました。

しかし、新型コロナによって、そうした生活習慣も制限されてしまったのです。これまで意識していなかったようなちょっとした生活習慣が、実はメンタルヘルスにとって重大な問題を引き起こすと、多くの人々は新たに認識したのではないでしょうか。

私たちは、ウイルスに感染しないために家にひきこもりましたが、それが長期間続くと、元気だった人が病んでしまうという状況を目の当たりにしました。

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