6月5日、ECBは利下げによる一層の金融緩和を決断するとともに、「マイナス金利」という非常手段を導入した。さすがに預金金利のことではなくて、民間銀行の超過準備に対する金利をマイナス0.1%にしたのである。ユーロ圏の物価上昇率が低下している(5月の総合指数は0.5%)ことへの危機感の表れで、ECBとしては民間銀行に対して「お前ら、もっと貸し出ししろよ!」と発破をかけている形である。
しかるにユーロ圏全体が「物価目標2%」を目指すのであれば、借金返済を急ぐ南の国の物価はある程度低くなるので、北の国の物価が高めに出てくれないと達成できない。しかるにドイツは歴史的にインフレを嫌うので、「物価上昇3%」などとんでもないと思っているに違いない。ワイマール共和国時代のハイパーインフレの記憶が、かの国では今も鮮烈に残っているのである。
ユーロ圏経済というものは、北の国が南の国を支えてくれないことには成り立たないようになっている。ところが誰しも、自分を犠牲にしてまで他人を助けようとは思わない。通貨や財政など、ユーロ圏の問題のほとんどはこの点に帰着する。インフレ率も同様だ。そして他のケースと同様に、解は見当たらない。経済はそれでは困るのだが、サッカーは実力と運次第でどんどん上を目指せばよい。南がダメなら北があるさ。余談ながら今大会で筆者は、ミューラーとクローゼという新旧のストライカーを要するドイツ乗りである。
甘いアジア枠は誰のためにあるのか?
今大会では中南米勢が絶好調で、開催国のブラジルを筆頭に、メキシコ、チリ、コロンビア、コスタリカ、ウルグアイ、アルゼンチンが次々にトーナメント進出を決め、ベスト16の半分近いシェアを占めるに至っている。情けないのはアジア勢で、日本、韓国、イラン、豪州は結局1勝も挙げることができなかった。
この結果を見て、「次の大会からアジアは出場枠を減らされるのではないか」との声が早くも囁かれ始めている。確かに、さほど強くもない日本が5大会連続でW杯に出場できているのは、アジア予選のレベルが低いからにほかならない。そしてまた、アジア予選のレベルに留まっていては、本大会で上に行けないというのもおそらく真実なのであろう。
しかるにW杯は、スポーツであると同時にビジネスでもある。そしてビジネスとしての将来を考えた場合、膨大な人口を抱えるアジアを無下にはできないという現実がある。端的に言えば、FIFAはいずれ中国とインドにサッカー熱を植え付けたいのである。
この点、開会式の直前に出た「The Economist」誌のカバーストーリーが皮肉たっぷりにこう形容している(6月7日号”Beautiful game, dirty business”)。
“Football is not as global as it might be. The game has failed to conquer the world’s three biggest countries: China, India and America. In the United States soccer, as they call it, is played but not watched. In China and India the opposite is true. The latter two will not be playing in Brazil.”
(フットボールはそれほどグローバルな競技ではなく、米中印の3大国を制覇できていない。アメリカは「サッカー」をプレーするけれども視てもらえない。中印は視てくれるけれどもプレーがお粗末で、ブラジル大会にも出られない)
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