──大きな不安を抱えている一般の人々にも、アドバイスがあればお願いします。
私が助言できることは3つあります。
まず1つ目は、コントロールできない不安は、ゼロにしようとせず、不安はありながら、適切な行動をしていくことです。
「もうコロナのことを考えないようにします」という患者は多いのですが、逆に考えてしまう結果になります。これは“皮肉過程理論”と呼ばれているもので、アメリカの心理学者・ダニエル・ウェグナーが行った、「シロクマ実験」で証明されました。シロクマのことを絶対に考えないように指示されたグループと、シロクマについて考えても考えなくてもどちらでもいいと指示されたグループとに分けると、前者のグループのほうがシロクマのことを考えてしまう結果になったのです。
不安を消さなければとか、落ち着かなければと理性は考えるとします。しかし、実際には不安は消せないので、自分の感情と理性にズレが生じてしまい、余計に焦って不安を深めてしまう。だから、「不安になって当然なんだ」と考えると、少なくとも感情と理性は一致する。不安は付き合っていくしかない、という心構えが必要なのです。
行動を変えれば不安を変えられる
2つ目は、行動を変えることによって、不安を変えられるということ。
認知行動療法という、有効性が証明されたカウンセリング法のひとつに、自分の行動と、そのときの不安の程度を、日記のように記録する方法があります。「週間活動記録表」と呼ばれているもので、記録してみると、1日の中に「不安の波」があり、自分が不安になりやすい行動パターンがわかってくるのです。
ワイドショー的な報道を見て不安になる方が多いですし、インターネットの情報で不安になる方もいる。一方で、友達と他愛ない話をしているときは不安になっていない。
つまり、不安につながる行動を減らすことによって、1日のストレスも少なくなる。すると精神的な疲れがたまりにくい、ということにつながってきます。
これは医師が言うだけでは、患者の行動は変わりませんが、自分で週間活動記録表をつけてモニターすると納得できるのか、自ら行動を変えていくようになります。あまり難しくありませんので、誰でも取り組める方法だと思います。
3つ目の助言は“マインドフルネス”。
これは、東洋の瞑想にルーツがあり、今、目の前にあることに集中する生き方を意味します。心が未来のことにいくと不安になるし、過去にいくと後悔がでてくる。だから、今ここの感覚に十分目を向けていくのです。
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