──理解や共感だけで、患者の不安は解消されますか。
重要なのは、不安を解消するのではなく、不安は不安のままでいいと知ることです。これを話すと、救われたと安心する患者が多い。不安は解決したり、ゼロにできたりするものではないのです。
不安には、自分の力で対処できる不安と、できない不安があります。コロナの場合は、マスクをしたり手洗いをしたり会食を控えるなど、ある程度、自分の力で感染リスクは下げられます。一方で100%感染を防げるわけじゃない。いつ、どこでコロナをもらってしまうかわからない、という不安は、自分の力では解決できません。つまり、自分でコントロールできない不安はゼロにはできないので、上手に付き合っていくしかない、ということを患者に話します。
コロナに対する不安はどこからくるのか?
──どのような時に、不安になるのでしょうか?
1人でいる時間に、ワイドショーやインターネットなどの刺激的な情報に接すると、不安の回路が暴走して、焦燥感が募るようです。「破局的な思考」というべき、極端なバイアスがかかった、視野狭窄(きょうさく)な考え方になりがちです。このような場合、不安が膨張しないようにして、“合理的な行動を選ぶ”ことが大切です。
例えば「病院に行く途中でコロナに感染するかもしれない。でも行かないと、がんが進んでしまうかもしれない」という不安があるとします。リスクとベネフィットを主治医と相談して、今は病院に行くべきか、あるいは受診回数を減らすべきか、最も期待値が高い合理的な行動を選ぶことを勧めます。
──感染対策を徹底して「ゼロ・コロナ」を目指す方向性と、緩やかな規制で経済を回す「ウィズ・コロナ」のどちらがいいのか、世界各国が模索しています。
どちらの選択が正しいのか、現時点では誰にも正解はわからないですよね。だから、みんな不安になる。その不安は解消しないけれど、どちらかを選択して前に進んでいくしかない。情報を集めていけば、必ず答えが見つかると考えている人もいますが、この世界には最後までわからないブラックボックスが存在します。
そもそも、人生は不確実であり、恐怖と隣り合わせで生きていくしかないのです。例えば、世界の紛争地帯では、もっと不確実で恐怖が日常的だけれども、それが人生だからやっていくしかないと、その地域の人は思っているのではないかと想像します。日本の社会が求めてきたゼロリスクは、非常に安全な状況であったから期待できていたのだと、コロナが教えてくれたのかもしれません。
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