アパレル苦境で「人減らし」の嵐がやまない 三陽商会、ワールドなど相次ぎ希望退職の発表

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ただし、どの企業も簡単に人員削減に踏み切れるわけではない。希望退職は多くの場合、40代以上の中高年社員が対象で、退職者には「基本給〇〇カ月分」などといった相応の割増金が支払われる。会社にとっては人員を減らす分だけ一時的に多額のキャッシュアウトが避けられず、業況が厳しい中で決断をためらう会社も少なくない。

コロナ禍で再就職市場は冷え込んでいることもあり、冒頭の中堅アパレルの幹部は「この状況で自発的に手を挙げるのは実績や手腕のある人材に偏りがち。本来、削減を図りたいポジションの社員が退職するとは限らない」とも漏らす。決断が遅れるとリストラが手遅れになるが、希望退職を募ると有力な人材が出ていくリスクもあり、その実効性を見極めづらいという悩ましさもある。

希望退職の実施は氷山の一角

もっとも、上場アパレル企業が公表する希望退職者の数は、業界全体で行われている人員削減のほんの一部といえる。非正規雇用の比率が高い販売員やパタンナー、デザイナーなどは、各社が進めている大規模な店舗撤退や事業縮小に伴い、雇い止めや解雇されるケースも珍しくないからだ。経営破綻したレナウンの元社員は「都内の再就職支援のセミナーに足を運んだら、参加者の半分以上がアパレル出身で驚いた」と明かす。

昨年、希望退職に応募して大手アパレルを辞めた50代の男性は「社内には『残ったほうが安全』という雰囲気もなく、今回が割増金をもらって退職できる最後のチャンスだと思った。失業保険を受けつつ、資格取得などの準備をしながらアパレル以外への転職を考えたい」と語る。コロナの影響でアパレル不況が一段と深刻化すれば、各社で生き残りを懸けたリストラが増えることは避けられそうにない。

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真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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