――訪問看護師のご友人・森山さんからステージⅣのガンであるという連絡があったときにどんなことを思いましたか。
私は死をテーマに執筆をしてきたので、そんな私に「書いてほしい」という連絡をしてきたことに不安を覚えました。一方で、友人なので治るだろうと勝手に信じていたところもあるんです。私だけでなくて、森山さんご本人もとても揺れていました。
――森山さんは取材の中でどのような姿を見せていらっしゃったんですか。
毎日自分の好きなことをしようと決めて、うなぎを食べようとか、お寺に行こうとか、温泉に入ろうとか、ドライブしようとか、一見ささやかなことかもしれないですが命がけで最後の最後までやりたいことをやっていました。
彼が言った「僕には怒ったり、人を恨んだりする暇はないんです」という言葉が耳に残っていて。負の感情が湧いてくるときには、森山さんのこの言葉を思い出します。私は彼が生きられなかった今を生きているのだから、彼に倣って楽しく幸せに生きなきゃいけないと思うんです。
――本書では、お母様や森山さんといった死期が迫っている方からの「贈り物」が、1つのテーマになっていますよね。
取材の中で出会った「人は生きてきたようにしか死ねない」という言葉が、心に残っているんです。人間は、死期を悟ったからといって、いきなり善人にはなれません。自分がどう生きて、どんな後ろ姿を見せるか。それが、あとに残った人への贈り物になるんです。
そのためには、「自分の幸せ」を考え続け、それに向けて歩んでいかなければいけません。つい忘れちゃうこともあるのですが、こうやってお話をするたびに「そうだ、自分の人生を大事に生きよう」と思い出します。
残された家族への母からの贈り物
――健康なうちに「最期のとき」の話はなかなかしづらい人が多いように思います。
「縁起でもない」と感じて、最期の話をしない人は多いですよね。いつも一緒にいる家族だからこそ話せなかったりもする。私は取材を通じて、突然自分がコミュニケーションを取れなくなることがありうると実感しました。だから、元気なうちに最期の時期の話はしておくほうがいいと思います。
私の子どもたちは2人とも独立していますが、彼らには「自分たちの幸せを一番に考えなさい」と日頃から伝えています。私が死んだ後も長く生きるだろう人たちですから、まずは自分たちの幸せを考えてほしい。それが一番の親孝行です。
もし、余力があれば、その分だけ助けてもらえばいいのです。子どもたちは私の母の姿を見ているので、こうした話が大事なことがわかっていると思います。母からの贈り物ですね。
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