「誰かが生きられなかった今」を生きる人の矜持 佐々涼子さん『エンド・オブ・ライフ』を語る

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――ゴールが見えない中で取材をスタートし、寄り添いながら友人の最期を見守る気持ちは想像を絶します。

佐々涼子(ささ りょうこ) ノンフィクション作家。1968年生まれ。神奈川県出身。 早稲田大学法学部卒。日本語教師を経て、フリーライターに。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)で第10回開高健ノンフィクション賞を受賞。2014年には『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』(早川書房)で、紀伊國屋書店キノベス第1位、ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR第1位、新風賞特別賞など受賞。(写真:集英社インターナショナル提供)

どんな結末になるのか、どんな本になるのか、取材されている本人もわからないし、私もわからない状態でした。でも、それこそノンフィクションですよね。最初から「こういう答えにします」という本は、ノンフィクションとしてはすごくできの悪いものだと思うんです。

だって、自分が書きたいという方向に向かって、勝手に都合よい事実を積み重ねていけばいくらでも書けるじゃないですか。もっというと、それはノンフィクションではないと思うんですよね。

どんな答えが出てくるかわからないトンネルの中にいて、出口があるのかもわからないまま迷って進んでいく。それこそが人生であって、それこそがノンフィクションなんじゃないかと思うんです。

私の経験上、「こういうことが起こるかな」と思って入った現場では、たいてい違うことが起こるんです。予想通りなんてことはありえない。暗いトンネルの中を進んで綴っていくことが、読者に対しての誠実さであるんじゃないかなと私は思っています。

世の中の「当たり前」に納得しない

――そのノンフィクションへの覚悟はどこからきているのですか。

母が胃ろうを選択するか否かで悩んでいた頃、多くのメディアで「胃ろうは非人間的だ」と報道されていたんです。でも、実際の母を見ると報道とは異なっていました。顎が動かせない障害を持った人に、胃ろうを付けずに何も与えないとすれば、それは本人にも家族にもかえって残酷なことでした。私たちにそんな選択はできませんでした。

みんなが同じことを言っているときは、立ち止まって考えるべきだと思います。真実を確かめもせずに、思い込みで何となく納得してしまうことが私にも起こり得る。だからこそ、何か引っかかったら、いったん踏みとどまること。一見正しそうな言説に簡単に納得しないことが大事だと思います。

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