ロケで事故「芸能人の労働環境」は改善できるか フリーランスへの補償が広がる可能性は?

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なお、目下、コロナ禍は引き続き予断を許さない状況で、芸能人という職種は、撮影などでの感染リスクは決して低いとは言えないでしょう。行政通達では、業務中の感染可能性が想定される場合、労災保険の対象として認定すべきとしています。ですから、コロナ対応としても、労災保険への加入は、積極的に行うべきでしょう。

最後に、今回の芸能人に労災保険が適用されたことに関連し、社会保険労務士として感じたことを補足します。

それは、働き方が多様化している現在、より多くの方が、労災保険のセーフティーネットを受けられる世の中にしていくべきだということです。

たとえば、バラエティ番組において、「バンジージャンプをする」という企画があって、万が一事故が発生した場合、まったく同じ行動をしていたのに、事故にあったのが局アナ(テレビ局に雇用される労働者)であれば労災保険が全面的に適用され、フリーランスの芸人であれば労災保険の保護を受けられない、というのは結論として不平等でしょう。それが、今回の労災保険法の改正で解消されたわけです。

フリーランスへの門戸を開く必要性

芸能界以外にも、被雇用者とフリーランスの人が実態としては近しい形で働いているのに、フリーランスで働く人に労災保険の保護が及んでいない業界は、まだまだ少なくありません。

たとえば、プログラマー・WebデザイナーなどIT系のフリーランスの人や、士業、コンサルタント、カメラマンといった専門職・技術職のフリーランスの人たちには、まだ労災保険の門戸が開かれていません。

今回の芸能人の労災保険加入解禁を機に、ほかの業界においても、フリーランスの人の労災保険の加入解禁の機運が高まっていけば幸いです。

政府も多様な働き方を推進していますが、その実現のためには、どのような働き方をしていても、万が一のときには十分な補償を受けられる「安心」が、必要不可欠なのではないでしょうか。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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