肛門科医が教えるトイレの「正しい使い方」 「お尻の洗いすぎ」で引き起こされるトラブル

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トイレに行けば必ず温水洗浄便座の洗浄機能を使い、お風呂ではせっけんをつけたボディタオルなどでしっかりこすり洗いをする人や、中にはアルコール消毒をする人までいます。

そうした行動をするのは「何回拭いても、紙に便がついている」「下着に便がつくから洗わなければいけない」という理由が多いのではないでしょうか。お尻、とくに肛門は便の通り道でもあるため、“汚い”というイメージがあるため、「キレイにしておきたい」「清潔にしておきたい」という意識が高いようです。

しかし、「洗いすぎ」はお尻のトラブルを引き起こす原因となります。それは、「皮脂膜」がなくなってしまうからです。皮脂膜は、皮膚の表面を潤している天然の油分であり、とても重要な皮膚のバリア機能を担っています。

皮脂膜は外部から有害な物質を侵入するのを防ぐだけでなく、弱酸性のためバイ菌の増殖を防ぎ、皮脂膜の中にいる常在菌が肌を守ります。また、皮膚の表面が皮脂膜という油分で覆われているので、皮膚内部の水分が蒸発せずにすんでいます。肌を守り、水分の蒸発を防ぐ皮脂膜は、洗いすぎると簡単になくなってしまいます。そのため、洗いすぎたお尻は免疫力が低下して、さまざまなトラブルを引き起こすのです。

トイレの「正しい使い方」

会社ではなかなかトイレに長時間こもることができませんが、テレワークだとあまり時間を気にせずトイレに入りやすいものです。便がスッキリ出ないから出るまで待ってみたり、スマホや本を持ち込んで排便している間に数十分経っていたり……。どれくらい1日にトイレに滞在しているか思い浮かべてみてください。

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トイレで読書するとはかどるという患者さんもいますが、そんなことは言語道断です。トイレでは、椅子に座るのと違い、肛門が座面よりも下になります。

ただ座っているだけでもお尻がうっ血し、無意識にいきんでしまっていることもあり、お尻に負担がかかります。そのため、痔などのお尻のトラブルを引き起こす可能性が高くなるのです。

お尻のトラブルを引き起こすトイレ習慣が定着している人は、まずはトイレでの過ごし方や温水洗浄便座の使い方を見直す必要があります。

はじめは洗わないと気持ち悪いと感じたり、物足りなさを感じたりするかもしれませんが、「正しいトイレの入り方」や「洗わないこと」が、お尻のトラブル防止につながるのです。

佐々木 みのり 肛門科医/大阪肛門診療所副院長

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ささき みのり / Sasaki Minori

大腸肛門病専門医・指導医。大阪医科大学卒業後、大阪大学医学部皮膚科学教室入局。4年間、皮膚科医として勤務後、1998年より肛門科医に転身。同年7月に肛門科女性外来を開設。

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