「俺の家の話」クドカン歴代ドラマと決定的な差 「小ネタ」を抑えてシリアスなテーマを描く

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私は、『俺の家の話』に期待を抱く者である。そして、このドラマには、いくつかの追い風が吹いているとも考える。

1つは、同じくTBSで新年2日に放送された『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』が、視聴率15.5%を叩き出し、成功裏に終わったことだ。

野木亜紀子脚本によるこのスペシャルドラマは、『「逃げ恥SP」詰め込まれた"30の名言"が凄すぎた』(東洋経済オンライン)によれば、「これでもかというくらいの“社会課題てんこ盛り”」「少子化問題。男性の育児参加問題。LGBTにルッキズム、セクハラ……」という内容で、「社会派ドラマ」の市場性を先んじて立証した。

シリアスとコミカルを最適比率で調合

2つ目は、主演・長瀬智也の意気込みである。『宮藤官九郎&磯山晶Pが語る“役者・長瀬智也”の凄み ぶっ飛び設定にも説得力』(ORICON NEWS)の中で、『俺の家の話』のプロデューサー・磯山晶は「ポスター撮影では、長瀬さんの身体がすごく大きくなってた。仕上げてくれたんだなと」と語り、3月いっぱいでジャニーズ事務所を退所する長瀬が、相当の覚悟で、このドラマに臨んでいることがわかる。

「社会派ドラマ」というと辛気臭く思われがちだが、半年で13kgも体重を増やしたという、筋骨隆々の元プロレスラー役・長瀬智也の爆発的な演技が、このドラマを、シリアスとコミカルを最適比率で調合させた「シン・クドカンドラマ」に昇華させるのではないか。

3つ目は、TBS金曜22時という時間帯である。そもそもここは、山田太一による「社会派ドラマ」の傑作=『岸辺のアルバム』(1977年)、『ふぞろいの林檎たち』(1983年)が放映された「社会派枠」だ。土壌は肥沃なのだ。

「こんな時代だからこそ、人々に元気を与えたい」というのが、昨今のエンタメ界の常套句である。このフレーズを批判するほど、私の了見は狭くないが、それでも思うのは、「元気云々の前に、まず『こんな時代』そのものをリアルに描いてくれよ」ということである。

「元気を与えたい」と言われるよりも、西田敏行の体を風呂でゴシゴシと洗う長瀬智也の姿のほうに元気づけられるという人も、世の中には多いはずなのだから。私以外にも。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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