「俺の家の話」クドカン歴代ドラマと決定的な差 「小ネタ」を抑えてシリアスなテーマを描く

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ドラマの今後の展開を予測する。ストーリーの縦糸は、おそらく、主演・長瀬智也(観山寿一)と戸田恵梨香(志田さくら)の関係になるだろう。第2回では、長瀬が戸田に好意を寄せそうなシーンがあり、2人の関係は、このドラマに、恋愛ドラマ的要素を付加していくのではないか。

しかし、先の「新しい要素」とは、実は、ストーリーの横糸となり始めている、西田敏行(観山寿三郎)と、長瀬智也の息子役の羽村仁成(観山秀生)に、すでに埋め込まれている。

西田敏行は、能楽の大家で人間国宝という役どころ。しかし、脳梗塞で倒れてしまい、また認知症の疑いもあり「要介護1」に認定される。そこで、息子の長瀬智也がその介護役にまわり、風呂で西田の体を洗う。

羽村仁成は小学5年生で、学習障害と診断され、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の兆候もあり、学校に馴染めていない。それでもなぜか、能の稽古だけはじっと落ち着いて見ていられるのだが。

あと、一見何気ないものの重要なこととして、このドラマは、コロナ禍という設定のうえで書かれている。なので、登場人物は基本、マスクをしているし、また、ドラマ全体を覆う、どこか陰鬱なトーンも、コロナ禍の現代と地続きになっていると言えよう。

認知症、介護、学習障害、多動性、そしてコロナ禍……言いたいことは、『俺の家の話』には、誤解を恐れずに言えば「社会派ドラマ」としての側面があり、これこそがクドカンの新機軸ではないかということだ。

「シン・クドカンドラマ」へ

これまでの「クドカンドラマ」にも、社会的テーマを中核に据えたものがあった。

例えば『いだてん』。第40回「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で、田畑政治役の阿部サダヲが放った「アジア各地でひどいこと、むごいことしてきた俺たち日本人は、面白いことやんなきゃいけないんだよ!」という名ぜりふは、あのドラマの本質を示していた。

オリンピックにまつわる、さまざまな人間の人生を描いたドラマだったが、その主題は「国際社会における近代日本の自立と責任」だったと私は思う(そしてそれは、極めて現代的テーマでもある)。

しかし残念ながら、先に述べたような「情報洪水」や、それ以前に、視聴率低迷が先んじて報じられ、あの傑作ドラマの主題が、世の中に強く問われなかった感があった(本連載『「いだてん」視聴率低迷でも神最終回確信のワケ』も併せて読まれたい)。

また、ファンとして率直に言わせてもらえば、TBS×宮藤官九郎では、初期3作品=『池袋ウエストゲートパーク』(2000年)、『木更津キャッツアイ』(2002年)、『タイガー&ドラゴン』(2005年)が圧倒的で、それ以降の『吾輩は主婦である』(2006年)から『監獄のお姫さま』(2017年)までは、今ひとつ食い足りないところがあった。

『いだてん』をその総決算とする「クドカンドラマ」の成功と反省に加え、コロナ時代の閉塞感(早いタイミングでコロナに感染した宮藤官九郎は、それを人並み以上に強く感じたはず)をも勘案した結果として、「情報洪水」性・「小ネタ」性を抑え、社会的テーマを押し出した「シン・クドカンドラマ」へ踏み出したのではないだろうか。

次ページこのドラマに吹く「追い風」
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