W杯の高視聴率は、アイドルのおかげ? 米国のサッカー番組を見て思う、日本のガラパゴス事情

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民放のスポーツバラエティ番組は、秀逸な企画物も多いのに、なぜ世界的にもユニークなキャスティング戦略に走ってしまったのか。とても残念です。

職人技で魅せる、米国のスポーツ番組がスゴイ

筆者は22日、ESPNで生中継されたアメリカ対ポルトガルの試合を見ていましたが、どの場面もスポーツ番組のプロの職人技が光る構成となっていました。

番組のオープニングはドキュメンタリー調で、ナレーションは世界的な俳優、キーファー・サザーランドでした。リオ・デ・ジャネイロの特設スタジオのキャスターは、ESPNの看板キャスター、ボブ・リー。ゲストは、アレクシー・ララス(元アメリカ代表)と、スティーブ・マクマナマン(元イングランド代表)。ロスから中継でランドン・ドノバン(元アメリカ代表)。全員、かっちりとしたスーツ姿です。

スタジオには3人しかいませんが、話している中身が濃いので、長いと感じさせません。現地マナウスでの実況は、こちらも名物アナウンサーのイアン・ダンケ。解説はテイラー・ツウェルマン(元1860ミュンヘン選手)。

現地に優秀なデータマンがいるのかもしれませんが、刻々と動く試合の中で、細かい数字とデータを入れながら実況と解説を行っていくのは、まさにプロの技でした。途中出場の選手でさえ、その人がどういう来歴か、最近、子どもが生まれたなど家族の最新情報まで、詳細に伝えていました。

アメリカのスポーツ番組の世界は、アンカー、レポーター、解説者と、確固たる専門家が出演しますが、彼らは地位が高い職業として認知されています。スポーツキャスターが、バラエティ番組をやったり、音楽番組をやったりはしません。プロの技は、普段、スポーツ番組を熱心に見ていない筆者でさえも、すごいと思わせるものがありましたから、奇をてらったキャスティングをしなくとも、本物を伝えれば、女性の視聴者も十分取り込めるのではないかと、アメリカの中継を見て思いました。

次回のロシア大会こそ、民放テレビ局はその叡智を集結して、NHKよりも格好よくて、正当な番組で勝負してほしいものです。昨日、NBCを見ていたら、アメリカ版の「SASUKE」がゴールデンで放送されていました。日本のテレビ局の企画力ってすごいよな~~と改めて思った次第です。
 

佐藤 智恵 作家・コンサルタント 

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さとう ちえ / Chie Sato

1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。公式ウェブサイト

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