サッカーは、今でも貧困層の希望
一方でサッカーという存在は、今でも多くの貧困層に勇気と希望を与える存在であり、ワールドカップがその象徴であることは変わりありません。
私は、リオデジャネイロで、ファベーラ(貧困街、いわゆるスラム街)を回るツアーにも参加しました。リオデジャネイロでは、ワールドカップに向けて、政府と自警団が一体となってファベーラにおける犯罪撲滅運動に取り組んだ結果、環境の改善が大きく見られるところも出てきています。
そんなファベーラでも、子どもたちの足元にはサッカーボールがあります。子どもたちが希望を持って生きることは、彼らが犯罪に走らないために、いちばん大事なこと。彼らの夢はもちろんサッカー選手です。実際に、歴代のブラジル代表も、ファベーラ出身がたくさんいます。
そして、貧困層の希望という意味では、ワールドカップは世界規模で大きな影響を持っています。たとえば、ブラジルの裏側にある、アジアの最貧国のひとつ、バングラデシュでも同じで、この時期はバングラデシュの国旗ではなく、世界各国の国旗、それも特にアルゼンチンとブラジルの国旗がバングラデシュ国内でたなびくのです。
それだけではなく、ブラジルやアルゼンチンの試合があるとなると、工場を休みにしたり、早く工場を閉めたりするところもあるくらいです。バングラデシュはワールドカップに出場したこともありませんし、現段階の代表チームのレベルを見ると、ワールドカップに出場するのは当分難しいレベルです。
それでも国全体にこれだけの影響を与える理由について、バングラデシュの弊社工場の工場長マムンはこう話します。
「バングラデシュは1970年代に独立して、とても貧しかったんだ。当時、TVを持っている家や店は少なかったけど、子どもを中心に皆、テレビがあるところに集まって見ていた。そこに映っていて、皆で熱狂したのがワールドカップで、そこで活躍していたのが、同じ貧しい国と聞かされていたブラジルやアルゼンチンの選手だったんだよね。当時の子どもが大人になっても、ブラジルやアルゼンチンを応援するのはそういうことさ。アルゼンチン派が60%、ブラジル派が30%くらいかな。これには、マラドーナの影響が大きいと思うよ」
ワールドカップは国や地域を越えて、多くの国の子どもたちに勇気と希望を与えています。それは私たちが想像つかないような場所でも起こっているのです。
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