「平時でも罰則科せる」特措法改正の重大な欠陥 「まん延防止等重点措置」というグレーゾーン

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迅速な発出が求められることから、国会への「報告」で足りるとし、3カ月の期間制限と延長時の国会の「承認」を求める。強制力のある措置ではないため、補償規定は直接規定しないものの、適切な財政措置を政府に義務付けるべきだろう。

さらに、緊急事態予防措置は、そもそも緊急事態宣言に至らないために発出する措置であるから、医療体制の充実や地方公共団体への支援など、「緊急事態を回避する努力をする義務」ともいえる支援義務も明示する必要があるだろう。

一方で、現在まで融通無碍に都道府県知事による外延が不明確な「要請」などに利用されていた特措法24条9項を削除し、平時の要請は緊急事態予防措置に一本化すべきだ。

そして緊急事態宣言は、むしろより強力なウイルスの蔓延などにも対処できるよう強制力を強化すべきである。すなわち、命令と罰則は導入しつつ、こちらは強制力ある措置であることから、“施し”としての財政上の措置ではなく、われわれの請求権としての損失補償を法律に明記すべきだ。

国会への「報告」ではなく「承認」が必要な制度に

また国会「報告」ではあまりに簡便、かつ菅義偉首相が出席を拒否したという事実(国会承認が必要な新たな立法事実ともいえる)を見ると、説明責任や民主的正当性を担保する制度としては足りない。国会の「承認」が必要である。

期間制限も6カ月とし、延長の度に国会承認を要求すべきだ。国会での質疑を経て、宣言発出の基準や要件充足性が迅速かつ的確に行われるシステムとすべきである。昨春からの反省点の検証がまったくなされなかったことからしても、宣言解除後には速やかな検証委員会を設置し、国会に報告する仕組みも規定すべきだろう。

昨春からの緊急事態宣言下では「自粛警察」などによる差別的行為が各地で散見されたことから、差別の禁止と、これに対する救済措置や差別などを行ったものへの差別禁止勧告および悪質事案の公表などでの実効性の担保を規定する必要がある。

この点も、今回の改正案は啓発活動程度しか規定しておらず、国や公権力が責任をとらない「要請=お願い」ベースによりまん延した同調圧力と相互監視に対して無責任がすぎる。

特措法はその目的で「国民の生命および健康」と「国民生活および国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすること」が等しく並んでいる(特措法1条)。それにもかかわらず、現在の法改正や政策の議論は、「国民の生命および健康」に重点が置かれすぎ、生活や経済があまりに軽視されてはいないか。しかも、ここまで見たとおり、はたして生命および健康にとっても効果的な法改正および法運用であるかすら疑わしい。

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