「平時でも罰則科せる」特措法改正の重大な欠陥 「まん延防止等重点措置」というグレーゾーン

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現行の緊急事態宣言でも国会報告が要求されるが、それより重い措置を取れるまん延防止等重点措置では、国会関与が規定されていない。主権者国民→代表者(国会)の関与による内閣への手綱という、いわゆる民主的正当性が担保されていないのだ。

発動要件も「国民の生命および健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件」(特措法改正案の第31条の4)とされるが、罰則が適用されうる措置にもかかわらず、いかなる場合にこの要件にあたるかが不明確になっている。

そして、その具体的内容を政令に委任してしまっては、われわれ国民の代表者が作った法律だからこそ権利の制約を認めうるという広い意味での「罪刑法定主義」の趣旨にも反する。

法律の制定や改正には、必要性および根拠となる事実たる「立法事実」が要求される。今回、現行の緊急事態宣言よりも強い措置をとれる「まん延防止等重点措置」を新設する立法事実とは何であろうか。

緊急事態宣言とは過料の金額が違うだけ

緊急事態宣言も法改正によって命令および罰則が導入されるため、まん延防止等重点措置と緊急事態宣言のとれるオプションにほぼ差はない(過料の金額が違うのみ)。

そうすると国会関与と延長回数の制限がない分、よりラフに緊急事態宣言と同じ措置がフリーハンドでとりやすくなる、という以外に理由はなさそうである。この権力側の利便性が理由ではあまりに市民の自由および人権をおろそかにしすぎであるし、もちろん、立法事実にはならない。

1月9日付で全国知事会が『新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を受けた緊急提言』として、「緊急事態宣言の発出される以前でも必要な対策がとれるようにすること」を要望している。知事会が要望すれば法律改正が行われることになりかねず、これ自体を立法事実とすることもできない。

過料の金額が数十万円違うだけのプチ緊急事態宣言が多用されれば、当然その後の緊急事態宣言の効果も事実上低下するおそれがある。つまり、コロナ禍への実効的対処という究極目的からして、法的にも、政策的にも、改正案にあるまん延防止等重点措置は「欠陥」があるといえるだろう。

詳細は筆者も関与した冒頭の緊急提言に譲るが、改善提案は簡単かつ明確だ。まず法の、根拠ある措置であることが最重要なので、まん延防止等重点措置を「緊急事態予防措置」と名称変更し、とれる措置は要請(従うも従わないもわれわれ次第)までとし、強制力や罰則は規定しない。

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