例えば季節性インフルエンザワクチンでは、2018‐19年シーズンの予防接種では約5251万回の接種があったが、このうち9例がアナフィラキシーと認められている(厚生労働省の医薬品・医療機器等安全性情報)。
ここまで有効性と副反応についてみてきたが、ワクチン接種では、健康な人が病気にかかることを予防する効果というベネフィットと、副反応というリスクを比較することになる。そこが、すでに病気にかかっている人が、薬や手術でベネフィットを受ける治療とは大きく意味合いが異なる。当然だが、これまで承認されているワクチンはすべて、ベネフィットがリスクを上回るものだ。
さらに、そのベネフィットとリスクの関係も、接種する対象者によって変わる。
例えば、新型コロナウイルス感染症では高齢者で高率に重症化し、死亡率が上がる。そのため予防接種におけるベネフィットが大きい。対して、重症化しないといわれる若年者では、ワクチンを打つベネフィットは高齢者ほど大きくない。
若年層でも後遺症を防ぐために
ただ、これはある側面を見た場合だ。永井さんが続ける。
「ワクチン接種のベネフィットには、社会的な感染を防止して、病気の蔓延を防ぐということもあります。それが冒頭の大原則にも通じるところになります。ただそれが個人のベネフィットに必ずしもつながらないところがあり、そこはもっと啓発活動が必要でしょう。新型コロナウイルス感染症では若年者でも後遺症に苦しむことがあるので、予防接種の意義があるという啓発も必要です。そこは男性への風疹ワクチン接種の事例が似ているかもしれません」
風疹に関しては、妊娠初期にかかった妊婦の子どもに先天的な心疾患や難聴、白内障などが生じる風疹症候群という問題がある。そのため個人の発症を防ぐためだけでなく、妊婦への感染を防ぎ、生まれてくる子どもを守るために、国は予防接種を受けていない40~50代の男性への抗体検査と予防接種を呼びかけている。新型コロナウイルス感染症では、それと同じ、あるいはそれよりもっと強いメッセージが必要だという。
永井さんは予防接種政策を進めるには、コミュニケーションが重要という。
「予防接種では、医師と被接種者と双方向のコミュニケーションが大事で、医師は受ける方の質問、疑問に的確に答える必要がありますし、副反応の対応法もお互いに理解していなければなりません。それにはとにかく偏りのない情報公開が必要。国はもとより、製薬企業の関係者も一体となって、正確な情報を発信してほしい」
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