欧州4カ国がタッグ「夜行列車」路線拡大の勝算 背景に環境問題、成功のカギは「ライバル登場」

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もう1つ注目を集めているのは、ライバルとなる企業が参入することで、市場をより活性化できるかどうか、という点だ。

ここまでの話はすべて、オーストリア連邦鉄道のナイトジェットと、それに賛同する各国のナショナルキャリア(国鉄もしくはそれに準ずる鉄道会社)であり、それを各国政府が積極支援するという図式だ。

だが、ベルギーに拠点を置く民間旅客鉄道会社を支援する非営利団体「ALLRAIL」は、政府の後ろ盾がある1社が市場をモノポライズすることは、その事業が停滞することを意味し、長い目で見れば政府が補助金などの資金提供に消極的な姿勢となる可能性があると警鐘を鳴らしている。

前述の通り、現在の夜行列車はすべてが独立採算で黒字を出しているわけではなく、一部は政府からの補助金で運行している。これらの補助金は、現状では民間企業には与えられず、ナショナルキャリアだけのものとなっているが、こうした不平等に加え、高額な線路使用料が民間企業参入の足かせになっている、と同グループは訴えている。

民間企業の参入が活性化のカギか

現在、定期的な夜行列車を運行している民間企業はチェコのレギオジェット1社のみ、これに将来的な参入を計画しているドイツのフリックス・トレインや、不定期なものとしてスウェーデンのスネルトーゲットなどがあるが、いずれも非常に小規模な運行である。

連日大盛況のチェコ民間企業レギオジェットの夜行列車。低廉な価格にもかかわらず充実したサービスが人気の秘訣だ(筆者撮影)

だが、レギオジェットの夜行列車は非常に好評で、毎日運行されるスロヴァキア方面はもちろん、昨年夏に運行されたプラハとクロアチアのリエカを結んだ夜行列車は、連日満席となる大盛況であった。

チェコやイタリアで見られる官民鉄道会社の熾烈な戦いは、お互いが切磋琢磨することで、結果として相乗効果を生み、両国の鉄道シェア拡大に大きく貢献した。夜行列車の将来的な発展を握るカギは、もしかしたらここにあるかもしれない。今後は、民間企業が積極的に参入できるよう、EUや各国の支援体制強化も重要になってくるだろう。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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