大行列!「奇跡の喫茶店」は、いかに誕生したか 愛される「石釜ホットケーキ」が生まれた理由
田村:実は万が一、うまくいかなかったら、ほかのお店と同じように銅板でホットケーキを焼こうと、ガス器具を用意しておいたくらいです。
野中:ホットケーキの試行錯誤にはどのくらいかかったのですか?
田村:半年はかかりました。
野中:そんなに。途中でやめようと思わなかったのですか。
「行列ができる店をつくろう」
田村:それは考えませんでした。やめるとほかの店との差別化ができませんから。「ここで挫折すると後がない」という気持ちで頑張りました。その方とは、「行列ができる店をつくろう」と話し合っていたのです。
遠藤:今、現実に行列ができていますね。
田村:ありがたいことです。そのデザイナーとの打ち合わせの出発点が実はそこだったのです。「まず行列をつくらなければいけない」という話から最初の打ち合わせがスタートしたんです。
私はそんなことは夢にも考えていなかったので、びっくりしました。珈琲館時代からホットケーキをはじめ、いろいろなフードを出していたのですが、そのままでは駄目だと。「家庭では食べられないフードにしなければ、行列はできない」と指摘されました。
野中:それは非常に高い目標ですね。飲食店の目標といえば、「料理の味をよくする」とか「売り上げはこのくらい」だとか、そのくらいでとどまってしまいます。
田村:そうですね。前の珈琲館の時代はそうでしたから、それがある意味、私の限界なのでしょう。
遠藤:お客さんが見て、味わって、「Wao!」と感動するものを出さないと行列はできない。それは石釜がなかったら駄目だったのでしょうね。
野中:私の父親は下町の職人でした。子どもの私が見ていても、とにかく仕事熱心で、技を磨き、一度始めたことは最後までやり抜く。「その執着力はすごいなあ」と思っていました。でも田村さんのように、発想は跳ばせなかったですね。
遠藤:そのときに、田村さんがお世話になったデザイナーのような方がいたら、跳んだんじゃないでしょうか。
野中:そうかもしれません。出会いが重要だったのですね。
職人は自分の中に閉じこもってしまいがちなのです。それこそ、ホットケーキを焼く鉄板や銅板に徹底してこだわってしまう。でも、それはカイゼンであって、イノベーションにはならないわけです。ひいては、石釜ホットケーキは生まれてこない。
田村:私もそうですが、職人は、道を究めれば究めるほど頑固になり、外からの情報を受け入れる心が狭まってしまう。私の場合には、そのデザイナーの方が狭量な私の心をぶち壊してくれたんです。