大行列!「奇跡の喫茶店」は、いかに誕生したか 愛される「石釜ホットケーキ」が生まれた理由

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遠藤:野中先生、この話は「知識創造理論」の「SECIモデル」に合致する事例だと思うのですが、いかがでしょう?

石釜ホットケーキは、まさに「知識創造モデル」

野中どんぴしゃりだと思います。まず田村さんとそのデザイナーが月2回、徹底的に話し合い、暗黙知を共有するペアになったわけです。そのときにデザイナーが偉かったのは、「行列をつくる」というチャレンジングな高い目標を掲げたことです。

そのための方策を2人で、いや奥様含めて3人で練っているうち、「石釜を入れる」というアイディアが出た。さらにそこに、いろいろな食材を入れてみたら、というアイディアが出て、最後はホットケーキも石釜で焼くことになった

焼く過程が変わるわけですから、材料にも一工夫しなければ、ということで、アイスクリームとリコッタチーズを入れた。メープルシロップと生クリームを添えるというのも、試行錯誤して出たものだと思います。こうして行列してでも食べたい、唯一無二の食べ物になったわけです。

田村:ありがとうございます。

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遠藤:最初から石釜でホットケーキを焼くというアイディアが田村さんの頭の中にあったわけでなかった。デザイナーと「ペア」になり、「協働作業」から、そのアイディアが生まれたわけです。イノベーションの多くは「予想もしない偶然」から生まれます。「セレンディピティ(偶然の幸運)」というにふさわしいと思います。

その「セレンディピティ」を手にするには、座して待っていては駄目で、「行動」が伴わなければなりません。その行動が、田村さんの場合、カフェ講座に通うことであり、そこで出会った方に店舗デザインを任せたことでした。知識創造というと小難しく考えてしまいがちですが、実は私たちの身近なところで日々起きているということを教えてくれています。

野中「思い」と「行動」、そのどちらも大切です。それがあれば必ず「同志」が現れます。今日は詳しいお話を伺えませんでしたが、ひょっとして、奥様も田村さんにとってかけがえのない同志なのではないでしょうか。

実は、僕の勤務先がここから歩いて数分なんです。こんなお店があるとはついぞ気づきませんでした。また食べに来ますよ。行列があまり長くないときに(笑)。

(構成:荻野進介)

野中 郁次郎 一橋大学名誉教授

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のなか いくじろう / Ikujiro Nonaka

1935年東京都生まれ。58年早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院にてPh.D.取得。南山大学、防衛大学校、一橋大学、北陸先端科学技術大学院大学各教授を歴任。日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジマネジメントの権威で、海外での講演多数。主な著作に『知識創造企業』(共著、東洋経済新報社)、『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社)などがある

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田村 信之 「石釜bake bread 茶房TAMTAM」店主

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たむら のぶゆき / Nobuyuki Tamura

1957年生まれ、東京都出身。家業の喫茶店を自然の流れで受け継ぎ、食の世界へ。2014年9月20日にモダンな癒しの空間「石釜bake bread 茶房 TAMTAM」を神保町にオープン。「石釜ホットケーキ」を求めて、一部上場企業の社長もお忍びで行列に並ぶなど、大人気店になっている。

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遠藤 功 シナ・コーポレーション代表取締役

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えんどう いさお / Isao Endo

早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を務めた。

2020年6月末にローランド・ベルガー日本法人会長を退任。7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動。多くの企業のアドバイザー、経営顧問を務め、次世代リーダー育成の企業研修にも携わっている。良品計画やSOMPOホールディングス等の社外取締役を務める。

『現場力を鍛える』『見える化』『現場論』『生きている会社、死んでいる会社』『戦略コンサルタント 仕事の本質と全技法』(以上、東洋経済新報社)などべストセラー著書多数。

 

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