とくに、今回、緊急事態宣言の対象となった首都圏1都3県の少なさが目立つ。それでもなお、すべての都道府県でOECD加盟国平均の4.7床を大きく上回る結果となった。
市区では嬉野市(佐賀県)が人口1000人当たり55.1床、町村では壮瞥町(北海道)が151.0床でそれぞれ最多となった。両市町とも湯治場としての歴史が古く、2019年10月時点で、嬉野市には国立病院機構嬉野医療センターを筆頭に4病院が、壮瞥町は民間2病院が所在する。
古くから現在に至るまで、治療・療養のため他市区町村からも人々が訪れる“医療のまち”として、人口に対して病床数が多くなっている。
ランキング全体を見ると、市区では9割超の自治体でOECD平均を超えるものの、町村では半数近くの自治体がOECD平均未満だ。人口当たり病床数が最も多い高知県でも8町村では病床がない。都道府県内でも病床が市区に偏る状況がうかがえる。
「万全の備え」より「柔軟な対応」
一方で、病床の多さが医療費の増大につながるとして、国は病床数の適正化(すなわち病床削減)を推し進めてきた。2019年9月には、厚生労働省が「再編統合について特に議論が必要」な424の病院について名称を公表して議論を呼んだが、該当病院に感染症指定病院が含まれていたことなどもあって、新型コロナを受けた削減反対の声も高まりを見せる。
しかし、新型コロナの感染拡大でわかったことは、近い将来の状況すら予測できない未知の疾病に備えることの難しさだ。限りある資源のもとで「起こるかもしれない病」に備えることは現実的でない。求められるのは「万全の備え」ではなく「柔軟な対応」だ。
有識者有志で構成される「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」は、「6つの緊急提言」を表明している。その1つ目が「医療資源を最大限に効率的に活用するため、医療機関の集約化・役割分担・連携を大胆に進める」ことだ。例えば、以下のような具体策が提示されている。
- ・重症者対応ができる病院を都道府県単位に複数または2次医療圏毎に原則1つ以上確保
- ・重症者対応のため、対応能力のある医師・スタッフを病院の壁を越えて重症者対応を行う病院に集約
- ・コロナ患者を受け入れない医療機関は、コロナ患者を診療できる医師・スタッフを、コロナ患者を受け入れる病院に派遣することや、回復期に入ったコロナ感染者を感染症対応病院から受け入れること、発熱外来を設けることなどにより、柔軟かつ多様な形でコロナ対策に貢献
あわせて、新型コロナ患者受け入れ病院や医師の派遣を行った病院には手厚く、コロナ対策に貢献しない病院に対しては医療分野以外の一般事業者への支援を踏まえた支援にとどめるなど、メリハリのある財政支援のあり方も提言されている。
編集部の調査でも、都道府県間あるいは市区町村間で人口当たり病床数に相当の差が見られた。市区町村の枠を越え、状況によっては都道府県をまたいで、医療機関ごとの役割を明確にし、人的・物的資源を柔軟に配置する。そのうえで症状に応じて、宿泊・自宅療養も含め、患者を振り分けることが医療体制を維持するために有効だろう。
医療資源と患者を集約して集中的に治療にあたることと、そこで新型コロナ対応にあたった医療従事者について、自治体や病院の壁を越えた応援派遣を駆使して、一定期間の休養を確保することが危機を乗り越えるために求められる。
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