気鋭の東大教授「50歳で女性装」を始めた胸の内

多くの困難に直面しても果敢に戦ってきた

──安冨さんご自身も子どもたちのためにずっと活動していらっしゃいますよね。

安冨:そうでもない、私は言っているだけです(笑)。やっていることは馬の面倒を見ているだけですから。

でもそれはすごく大事なんですよ。「子どものために」なんて言っていると本当にろくなことがない。子どもを中心に置いて、その子のために何かをしようとすると、大抵その子を破壊します。そうじゃなくて"ここに一緒にいる"というだけの状態がとてもいい。

──というと?

安冨:最近牧場に来る子どもたちを見ていると、馬を恐れない子がすごく多いんです。馬を見ても「乗せて乗せて〜」という調子で全然怖がらない。でも、それは馬が怖いこと、乗ったら危ないということがわからないんですね。なんでそんなことが起きるかというと、大人がつねに介入してるからなんです。

現代社会で普通に親をやっていると過干渉になる

──過干渉という言葉でよく言われますね。

安冨:そう。社会システム全体がそうなっていると思います。子どもがなにかの拍子にもケガをする可能性が一切ないように社会が構造化されているんです。親自身もそう動きますが、社会構造全体がそうなっている。だから現代の社会で普通に親をやっていると、過干渉になる。

でも、それはもう暴力なんです。だってそういう子どもたちって感受性とかが損なわれていくから。コミュニケーションにおいて馬が危ないと思わない以上、当然人間のことも怖いと思わない。誰かと距離を測りながらコミュニケーションをとることも全然できなくなってしまうわけです。

だけど人間社会というのはお互いに距離感を測りながらコミュニケーションして自分を守らないと、暴力を受けるんですね。そういう状態の子どもが大人になって、普通に社会人として働き始めたら、ボロボロになると思います。

恐ろしくなって家の中に引きこもるか、ボロボロになっても働き続けるか、どちらか。となると、この人たちは必然的に生きづらいと言うと思うのです。

──大人としてはどうしていけばよいと思いますか。

安冨:子どもがもっている自分自身の意欲とか夢を実現できるように大人が助ける関係性をつくらないといけないと思いますね。そうして子どもを守っていく。そういう大人がたくさん出てくるまで、状況は回復しないだろうと思います

──われわれは今、そのことに気づかないといけない?

安冨:はい。ただ、自分自身が守られたという経験をもった大人がすごく少ないので、自分が大人として子どもを守るということがどういうことなのかがわからない人が増えている。自分の中にないことはできないですから。そこが問題だと思います。

※写真の衣装は、デザイナー酒井美和子さんの提供によります。撮影の様子はこちらをご覧ください。

(取材・文/木村千鶴)

安冨 歩(やすとみ あゆみ)/東京大学東洋文化研究所教授、経済学者。1963年、大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業後、住友銀行勤務。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。東京大学総合文化研究科助教授を経て、09年より同大東洋文化研究所教授。著書『「満洲国」の金融』で第40回日経・経済図書文化賞を受賞。他にも『貨幣の複雑性』(創文社)『生きるための経済学』(NHKブックス)『生きる技法』(青灯社)など著書多数。
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