気鋭の東大教授「50歳で女性装」を始めた胸の内 多くの困難に直面しても果敢に戦ってきた

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安冨:私は、これって経済システムとか社会システムが日本人を全員つらい状態に追い込んでいるんじゃないかと思うんです。そういう状態が基本になるように、社会が人を育てていて、大人になったときにはそこから逃れるために、必死で働いて必死に消費する以外ないという状態に。

「経済システムや社会システムが日本人を全員つらい状態に追い込んでいるんじゃないかと思う」(写真提供:安冨歩)

これは一般的な話ですけれど、「いるだけで苦しい」という状況に追い込んでおけば、人間は何かを達成しようとします。達成しなければ「私には価値がない」と思うから無駄でもなんでも頑張るんですね。

そのエネルギーを集めて駆動させて、経済発展とか、軍事拡大とか科学の発展とかを実現するのが、近代社会の特徴なんです。とても嫌なシステムですよね。でもそれが、近代という社会が成功を遂げてきた最大の理由だと私は思っています。

──苦しい状態をつくって負荷をかけ、成長させるやり方なんですね。

安冨:そう、それは恐らく幼少期からですね。親や学校といった大人の影響によって、子どもはつらい精神状態になるように育てられているから、基本的に小さいときからつらい。

そのつらさから逃れるために勉強して、大人になってからも一生懸命働いて、それで得たお金で消費する。働くのと消費するのとでつらいのをごまかすんですね。

出世欲が強くないと東大教授になんかなれない(笑)

──安冨さんご自身も、子どもの頃から抑圧され、つらさを感じて生きてきたと仰っていますが、そのまま大人になってからは、どのような生き方だったのですか。

安冨:忙しくしていた30代、私は猛烈な仕事人間でした。大学にいて、もちろん研究自体が面白かったんですが、純粋に研究を楽しむというより、人々を唸らせて、いいポストに着くという野望のほうが強かったのです。

──ご自身でもそういう出世欲のような気持ちを持っていたわけですか。

安冨:もちろん、そういう気持ちはすごく強かったですよ。そうじゃないと東大の教授になんかなれない(笑)。ただ、留学先のイギリスや、帰国してから勤めた大学でも、単なる権力構造や露骨な暴力、搾取が横行していることに気づき、本当に嫌になった。その構造の中に自分も住んでいるんだということを自覚して、どうにか抜け出したいと思ったんです。

その頃は結婚生活もうまくいかず、離婚したいと思い、悩みに悩んで、その中で、自分にもたらされていた母親や配偶者からのハラスメントにも気づきました。配偶者も親も、私の特質的な部分、肩書や学者としての才能といった、彼女たちにとって都合のいい部分だけを好み、私の全人格を否定しました。

その頃は欠点を徹底的に攻撃される日々で、精神、肉体共に耐えがたい状態が続いていたんです。そこから研究を始め、ハラスメントについて理解しようとし始めたのが1つの転機だったと思います。

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