中国口コミ1位カレー生んだ日本人の博打人生 マーケティングの常識では実現しなかった奇跡
ビジネスの教科書的な話でいうと、在留邦人の少ない済南市は、必ずしも飲食ビジネスのマーケットが大きいとはいえない。事実、日本のある外食チェーンが半年で撤退した例もある。緻密なマーケットリサーチをしていればおそらく出店は「NO」だっただろう。
しかし、そんな「ビジネスの常識的に出店はありえない」中国の地方都市で「中国最大の口コミサイトで1位のカレー」が生まれるのだから、ビジネスは、そして人生は何が起こるかわからない。
「僕の人生はお笑い。人が笑ってくれたらそれで幸せなんです」
と赤石氏は相好を崩す。高校時代には応援団長を務め、甲子園のアルプススタンドにも立った。根っからの明るさと、周りを喜ばせようとするエンターテイナー気質がある。若いときにのめり込んだDJの経験は、意外にも居酒屋経営に生かされているという。
「DJをやっていたときに『5:3:2の法則』というのを意識していました。5はお客さんが喜ぶ曲。3は僕がお客さんに紹介したい曲。2は僕がかけたい曲。この法則をメニュー作りにも応用しています」
その持ち前のサービス精神から、広い交友関係を築いていたことも奇跡のランキングを後押しした。いきなり料理人が辞めたとき。居酒屋の客足が伸びなかったとき。助けてくれたのは上海で築いた人脈だった。済南に渡ってからは50度を超える蒸留酒「白酒」を2カ月で50本以上空け、“飲みニケーション”で現地の人々との距離を縮めていった。
予定調和とは無縁の中国を楽しむ
堅実なキャリアプランとも、「石の上にも三年」のような人生訓ともほぼ無縁の赤石氏の人生。ただひたすら「おもしろそう」という直観と嗅覚だけを頼りに、サイコロを振り続けてきた。
「1位になったのはいいのですが、今のところ客足には結びついていないですね。いまだに自分に給料を払えていませんから」
自嘲気味に笑う赤石氏。その表情には、予定調和とは無縁の刺激にあふれた中国での日々を、むしろ楽しんでさえいるような強さがある。
マーケティングの常識からはみ出したことで生まれた“奇跡のカレー”。これからは不確実さがますます増大する時代、などといわれるが、「おもしろそう」でサイコロを振り続けるのも、案外成功への近道なのかもしれない。
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