中国口コミ1位カレー生んだ日本人の博打人生 マーケティングの常識では実現しなかった奇跡
中国・山東省で日本人が営む飲食店のカレーが、中国最大の口コミサイト「大衆点評」で「済南市のカレー部門1位」を獲得した。
日本でいう「食べログ」以上の影響力を誇る口コミサイトでの快挙。しかし、そこには大手外食チェーンのような緻密なマーケティング戦略も、マイルストーンもない。日本人店主が歩んできた道のりは、サイコロの目に導かれながら進むすごろくのような人生だ。出たとこ勝負、思いどおりにならない人生だからこそ“奇跡のカレー”は生まれた。
数多あるカレー専門店を抑えての1位
「あなたのお店が、済南市のカレー部門で1位になりました!」
11月上旬、中国・山東省の済南市で居酒屋を経営する赤石章太郎氏のもとに、その吉報は突然舞い込んだ。電話の主は中国の口コミサイト「大衆点評」。1日5千万以上のアクティブユーザーを誇り、口コミが絶大な信用力を持つ中国でナンバーワンのサイトだ。
今年2月初旬から4月にかけて、山東省は武漢とほぼ同時期にロックダウン(都市封鎖)を実施した。その間、赤石氏も自分の店舗にすら行けない日々を過ごしたという。
「大変でしたが、地元の高級日本料理店が新しい事業として仕出し弁当を出したいというので、その指導をするなどして、なんとかしのぎましたね」
そんなコロナ苦境の中、数多あるカレー専門店を抑えての1位という快挙。しかし、その理由を尋ねても、赤石氏は首をひねるばかりだ。
「特に、何をしたというわけではないんですよね。自分が好きなカレーを提供しようとしているだけで……」
緻密なマーケティング戦略も、計画的なマイルストーンもない。あるのはただ、「流れに身を任せすぎて生きてきました」と笑う赤石氏の、ジェットコースターのような人生だ。
赤石氏は岩手県北上市の出身。高校卒業後に上京してファッションの専門学校に進みスタイリストアシスタントを務めるも、「根性がなくて」すぐに辞めた。その後は、家電メーカーの工場で冷蔵庫の搬入・設置の仕事をしながら、アパレル店を手伝い、夜はクラブでDJとしてターンテーブルを回し仲間と飲み歩く。自由気ままな日々を送っていた。
だが、そこに突如起こったのが2011年の東日本大震災。北上市の実家も半壊の被害に遭った。
「オレはこのままでいいのか……」
嫌なこと、面倒なことから逃げてきた自分の眼前にいきなり突きつけられた現実。今後の人生に否が応でも向き合わざるをえなくなった。
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