あのダンテでさえ気絶した「道ならぬ恋」の結末 ダンテは「神曲」で不倫にどう向き合ったのか

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キリスト教が浸透していた中世のヨーロッパでは、貞操が何よりも重んじられていたからこそ、悪事に手を染めたら真っ先に地獄行きだと思われていたし、男女ともにビクビクして生きていたわけである。

モーセの十戒の中でも、そのコンセプトが特別に強調されている。第6戒「姦淫してはならない」(プロテスタントでは第7戒)、第9戒「隣人の妻を欲してはならない」(プロテスタントでは10戒)とあるが、行為自体はダメというのはもちろんのこと、空想にふけることすら罰せられているのだ。不倫より罪深いと思われる殺人に対して、「殺してはならない」とさらりと片付けているところを見ると、いかがわしい関係がどれだけ快く思われなかったかがうかがえる。

その結果、「恋=罪」という図式は、アモーレ帝国であるイタリアにおいても深く根付いており、その発想は今でさえ国民の意識の彼方にこびりついていると言える。

肉欲に溺れた男女が堕ちた地獄

そして、イタリア語の父こと、ダンテ先生も聖書マニアとして、もちろんこの話題について『神曲』で触れずにはいられなかった。場所は第二圏、愛欲者の地獄だ。

『神曲』は壮大な詩篇だが、最初から最後まで空想の世界である。大食いの罪を犯した者はケルベロスに噛まれながら、泥濘にのたうち回る。高慢だった人は、重い石を背負い、腰を折り曲げる。生前妬みや嫉妬心を抱いた人はまぶたを縫いとめられている。どれも怖くて、的確な因果応酬というか、倍返しの世界だ。

恋に焦がれて、欲望に溺れた愛欲者を待ち構えている地獄もバラ色のものではない。肉欲に身を任せた彼らや彼女らは、永遠に休むことなく、暴風に吹き流され続ける。

その壮絶な風景を眺めているダンテは、荒れ狂った風に吹かれつつも寄り添っている2人の亡霊に気づく。その2人は、ダンテと同じ時期に生きた人であり、切なくて悲しい邪恋に酔ってしまった男女だ。

フランチェスカはラベンナ領主の娘だったが、政略結婚で近所の町リミニの偉い人、ジャンチョット・マラテスタと結婚させられる。しかし、ジャンジョットは足が悪くて、容姿にも恵まれなかったので、彼女が嫌がりすぎて取引の成立に何らかの支障が出たら困るとみんなが思い悩んでいた。そこで、ハンサムな弟パオロを替え玉にして結婚式が行われたわけだ。

パオロを一目見て、フランチェスカはドキッ。「お父様の政治に役に立ちながら、こんなカッコイイ人と結婚できるなんてラッキー」と舞い上がっていた彼女が真実を知ったのは、次の朝だった。

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